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第27話 甘えていいのかな
――日曜。
朝から友人と約束していたゴルフ練習に出かけ、なかなかリフレッシュできた。
普段使わない筋肉を動かしたせいで、明日は筋肉痛になりそうだけど、それすら楽しい。
高村のいない週末だって、こうして過ごせる。
…これなら、いつだって大丈夫。
……高村が、俺のところに来なくなっても。
………。
ゴルフを終えて風呂に浸かりながら目を閉じると、結局またそのことばかり考えてしまう。
振り払うように、息を止めて頭まで湯の中に沈んでみた。
夜、家のソファでぼんやりテレビをつけていると、高村からメッセージ。
『無事に終わって帰ってきた。
ゴルフ楽しかった?』
日比野は少し微笑んで
『本当にお疲れ様。ゆっくり休んで。
ゴルフ楽しかったよ。今度一緒にやろう』
と返した。
高村からすぐに返信が来て
『良いね。一緒にやろう。
でもその前に、甘やかして癒されたいな』
そのメッセージを読んだ後、日比野の胸がきゅっと苦しくなる。
もちろん出来ればそうしたい。
でも、本当にいいんだろうか…?
今までのように当たり前に受け取って良いものじゃないんじゃないか?
(週末の高村を独占するのは、良くないこと、なんだよな、きっと…)
またぐるぐると色々考えてしまい、なんて返事をすれば良いかわからなくなっていた。
しばらく打っては消して打っては消してを繰り返して、途中の
『甘えていいのかな』
を送ってしまう。
「あぁっ。送っちゃったバカ…っ」
もうどうしようもなくてスマホを置いてふて寝することにした。
⸻
『甘えていいのかな』
という返信に高村は少し首を傾げた。
(…?どういう意味だろう?)
と思いつつも素直に返す。
『甘えていいに決まってるよ。俺も癒されるし嬉しい』
言葉選びには気をつけつつ、気持ちは最大限に込めて書いた。
日比野からの返信はない。もう遅い時間だし寝てしまったのかもしれない。
いつもの可愛い寝顔を思い出して、高村もスマホを置いて目を閉じた。
⸻
月曜の朝。
身支度を終え、軽く朝ごはんを口にしていた時、不意に昨日のやり取りを思い出してスマホを開いた。
『甘えていいに決まってるよ。俺も癒されるし嬉しい』
高村なら、あの穏やかな声でそう言ってくれるだろう。
胸がふっと温かくなる一方で、同時に不安も押し寄せる。
――もし、いつか高村が自分の前からいなくなったら。
こんなに甘えてばかりいたら、その反動はきっと大きい。
だから、今から少しずつ距離を置いて慣れていった方がいいのかもしれない。
…でも。
そう思うと同時に、今のうちにもっと甘えていたい気持ちも膨らんでしまって、胸の奥がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。
結局、返信はせずにスマホを閉じて、そのまま仕事へ向かうことにした。
社内の廊下を歩いていると、不意に高村と鉢合わせた。
「おはよう」
にこやかに声をかけてくる彼に、日比野は思わず足を止める。
「…おはよう。今日から休みなんだと思ってた」
「土日の報告とかもあるからね。今日は午前中出勤で、明日休み」
「ああ、そうなんだ。大変だな」
どう表情を作ればいいのかわからなくて、日比野はほんの少し視線を逸らす。
その仕草を見た高村が、ふっと笑いながら小声で囁いた。
「…日比野も明日から休みだったら良かったのにな」
ドキリとして、胸の鼓動が速くなる。
「………」
言葉を返せずに固まる日比野を見て、高村は小さく笑って肩をすくめる。
「冗談だよ。そんな顔しないで。…じゃあ」
軽く手を上げ、廊下を去っていく背中をぼんやりと見送る。
(…俺、今どんな顔してたんだろう…)
日比野はその場に立ち尽くし、ほんの少し呼吸を整えてから自分のデスクへと向かった。
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