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第32話 すれ違うやさしさ
日比野が休憩スペースに通りかかった時、
休んでいる高村を見つけ、隣まで近づいて話しかけた。
「…珍しいね、ここに居るの」
少し驚いたように高村は日比野を見てから笑って答えた。
「…俺だって休憩くらいするよ」
「まぁ、そうだよね」
ふふ、と笑う日比野の笑顔を見て、高村は少し視線を逸らす。
このまま、何も知らないふりをしていつもの週末を過ごしたい。
…でも、それだと日比野を困らせてしまう。
会うのはやめよう。
……でも、会いたい。
その葛藤をここ数日くり返していた。
嫌がられたり無視されたりしないだけでもありがたいことだ。勿論、日比野はそんな人じゃないのは知ってるけど。
こうして会社で会って普通に会話してくれる。それだけでも感謝しないと…。
「……高村?」
少し心配そうな日比野と目が合う。
ハッとして高村は曖昧に微笑んだ。
「…ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「大丈夫?…なにか、悩み事とか…」
「平気。ありがとう」
ホッとしたような、困ったような表情で日比野は
「そっか…。じゃあ、俺戻る」
と自分の席に戻って行った。
高村はその背中を見送りながら考える。
目が合うと、困ったようにそっと目を逸らす日比野を見るだけで胸が痛む。
(……やっぱり、ちゃんとけじめをつけないと、だよな…)
あまり考えたくなくて、窓の外の景色を眺めた。
曇天のどんよりとした灰色が、更に心を重くさせた。
まるで、答えの出ない想いを映しているみたいだった。
⸻
(…高村、ちょっと元気ない、みたいだったな…)
仕事でミスでもしたんだろうか。
悩み事かと聞いても何も答えてはくれなかったけど。
…もしかして、例の好きな人のこと、だったりして…?
…。
ちょっとだけ胸は痛むけど、そのことは考えないことにした。
穏やかでやさしい高村にいつも甘やかしてもらってばかりの自分だから、次に会う時には逆になって俺がいっぱい甘やかしてやろうか。
そしたら少しは元気になるかな。
そんなことを考えながら、日比野は自分のデスクに戻った。
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