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第55話 評価という確信
会議室の照明は、少しだけ明るかった。
壁一面のモニターに、編集済みの映像が映し出されている。
タイトルロゴの下に、小さく案件名。
LUNARIA
「オー・ド・クラージュ」
『好き、という勇気。』
再生ボタンが押される。
初めて観るわけではない。
それでも、この形で通して流れる映像は、現場とはまた違う緊張があった。
映像が終わる。
一拍置いて、クライアント側の担当者が口を開いた。
「……いいですね」
過剰な感嘆はない。
けれど、迷いもない声だった。
「全体のトーンが、すごく安定しています」
隣の担当者が、頷きながら続ける。
「感情に寄りすぎないのに、ちゃんと余韻が残る。
押し付けがましくないのがいいですね」
柏木は背筋を伸ばしたまま、静かに聞いている。
日比野は小さく息を吸い、高村は腕を組んだまま画面から視線を外さない。
「構図やビジュアルは、最初の提案段階から強かったです」
その言葉に、柏木がほんのわずかに顎を引いた。
「でも、それを“商品として成立させるライン”に
ちゃんと収めてくれたのが大きい」
今度は、高村のほうに視線が向く。
「感情を説明しすぎない判断が、全体をきれいにまとめていますね」
高村は、表情を変えずに頷いた。
「あと、演出の詰め方も良かったです」
担当者の視線が、日比野に移る。
「現場での判断が早い。
画が重くなりそうなところで、ちゃんと引いている」
日比野は一瞬だけ目を瞬かせてから、軽く頭を下げた。
「ありがとうございます」
誰か一人を持ち上げる言い方ではない。
けれど、役割ははっきりと分けて語られている。
「三人のバランスが、すごく良かったですね」
その一言で、空気が落ち着いた。
細かな修正点はいくつか出たが、
方向性を揺るがすものはなかった。
「このまま進めましょう」
「はい、お願いします」
確認は滞りなく終わり、会議は解散となった。
会議室を出る直前、柏木がやってくる。
日比野のほうに向かって笑顔を向けた。
「ありがとうございました。日比野さんのおかげで良い案が生まれました」
「とんでもないです。僕は何もしてない。柏木さんが閃いた案ですから」
柏木は高村のほうを向く。
「高村さんの判断、何度も助けられました。
お二人とも、また、是非お仕事できたら嬉しいです」
高村は軽く会釈をして答える。
「こちらこそありがとうございました」
日比野も頭を下げた。
「ありがとうございました。また是非」
会議室を出るとき、日比野がふっと息をはく。
「…通って、よかったな」
高村も頷いた。
「うん。良かった」
誰かが突出したわけじゃない。
誰かが引いたわけでもない。
それぞれが、自分の場所でやるべきことをやった。
その結果として、ひとつの形ができただけだ。
エレベーターを待つ間、不思議と沈黙は重くない。
扉が開き、乗り込む。
ゆっくりと下降する感覚の中で、高村は思う。
——この仕事は、成功だ。
そしてそれは、誰か一人の手柄じゃない。
その事実が、今はただ、心地よかった。
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