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第57話 答えは、ここにある

「いらっしゃい」 「久しぶりだな、高村の部屋。はい、お昼は お弁当買ってみた!」 「ありがとう。お茶淹れるから座ってて」 お弁当をダイニングテーブルに並べ始める日比野。 そんな様子を見て、高村は自然と頬が緩む。 お昼ご飯は二人で美味しく食べ、ソファで食後のお茶を飲んで一息つく。 しばらくして、日比野がつぶやく。 「……甘えたい、んだけど…」 「もちろん。いつでも良いよ」 高村はにこやかに日比野のほうに顔を向ける。 日比野は高村と目が合って、少しだけ目を伏せた。 「…先に、話、しようと思う」 「…そっか。うん、わかった」 日比野の真剣なトーンに高村の心臓が跳ねた。 早くなる鼓動を悟られないように、落ち着いた声で答えた。 日比野はカップの縁を指でなぞりながら、少しだけ息を整えた。 「仕事、終わって……正直、ほっとした」 「うん」 「ちゃんと形になって、ちゃんと評価ももらえて……ほんとによかった」 そこで一度、言葉が切れる。 日比野は考え込むように、視線を落とした。 高村は何も言わない。 促さないし、埋めもしない。 待つ、という選択をしている。 「……高村」 呼び方は、いつも通り。 でも声には、少しだけ慎重さが混じっている。 「俺さ、あの時……仕事が終わってからでいい?って聞いただろ?」 「うん」 「先延ばしにしたわけじゃないんだ。分かってると思うけど」 「分かってる」 即答だった。 日比野は、少しだけ笑った。 「……そういうとこだよな」 笑いながら、でも視線は逸らさない。 「ちゃんと向き合いたかった。中途半端な気持ちで答えたくなかったし、自分でも整理がついてないまま、言葉を出すのが嫌だったから」 言い訳ではない。説明でもない。 事実を、静かに置いているだけ。 「最初は『ちゃんと向き合う』ってこと自体、まだ良く分かってなかったんだと思う」 そこでまた、ほんの短い沈黙。 日比野は少しだけ言葉を探すように、間を取ってから続けた。 「でもさ、色々考える中で分かったんだ。 答えを急いで出そうとしなくても、悩んだり不安になったりしてる、その全部の中に答えはちゃんとあるんだって」 高村の表情は変わらない。 でも、視線は逸らさず、まっすぐ受け止めている。 日比野は、ゆっくり息を吸った。 ようやく言葉の迷いが消える。 「高村の言葉も仕草も全部、ちゃんと残ってる」 少しだけ、声が低くなる。 「……だから、答えは決まってる」 一度、間。 そして、まっすぐ。 「俺も、高村が好きだ」 飾らない言葉。 素直でまっすぐな、日比野そのもの。 高村は、すぐには何も言わなかった。 驚いた様子も、取り乱した様子もない。 ただ、ほんの一瞬だけ目を伏せてから、静かに息をはく。 「……うん」 それだけ。 でも、その声は、はっきりと柔らかかった。 「嬉しい」 高村は視線を上げて、日比野を見る。 少し照れたように、口元だけが緩む。 「…嬉しすぎると、…言葉が出てこないね」 目を細めて日比野を見る高村の眼差しは、それだけで十分に気持ちを表している。 日比野にもそれが伝わり、少しだけ泣きそうになった。 それを少し誤魔化すように、日比野は高村の手を取り両手で包む。 「…どういう好きの種類かなんて、考えても意味ないっていうか…どれも『好き』で良いだろって結論に達した。俺、高村のこと好きだしずっと一緒にいたい。…それでいいんじゃないかな」 日比野の答えは明確で、高村は微笑んだ。 「…日比野のそういうところ、好きだよ」 日比野は照れて顔を赤くする。 「…俺と、その、お付き合いしてくれる?…ちゃんと」 赤くなりながらも真剣な表情を見て、高村は日比野を包み込むように抱きしめた。 「…付き合うに決まってる。ありがとう」 高村の言葉に、日比野は胸の中で微笑んだ。 「…良かった。…なんかすげー疲れた」 一世一代の告白を終えて、日比野は高村の腕の中にふにゃりと擦り付く。 高村はぎゅっと強めに日比野を抱きしめる。 日比野も、同じように強めに抱きしめ返した。 重なった体温が、ゆっくりと落ち着いていく。 言葉はもう、必要なかった。 答えはちゃんと、ここにある。 二人はしばらくそのまま、離れずにいた。

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