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第67話 答えを出す前夜

日比野は家で一人、パソコンの前に座っていた。 部屋は静かで、キーボードを叩く音だけがやけに大きく響く。 検索窓に打ち込んだのは、 「男性同士 行為 やり方」 そんな言葉だった。 高村とちゃんと話すために。 ――いや、正確には、話せるだけの自分になるために。 今まで考えないで曖昧にしていた部分から、逃げないと決めた。 「……っ……」 画面に表示された情報を見て、思わず声が漏れる。 「……うわ……マジか……」 思ったより、ずっと具体的だった。 知らなかったわけじゃない。 でも、“知っている”のと、“自分のこととして受け取る”のは、全然違う。 理解すること自体は、難しくない。 ただ―― (……これを、俺が……?) 自分が受け入れられるか。 自分が、そこに踏み込めるのか。 問いかけるだけで、胸の奥がざわついた。 高村の声が、ふと蘇る。 ――抱きたいって、思ってる。 思い出しただけで、頬が熱くなる。 身体の奥が、落ち着かなくなる。 嫌悪じゃない。 拒否でもない。 ただ、知らない感覚に、戸惑っているだけだ。 (……高村は、俺と……) そう考えた瞬間、 妙にリアルな想像が浮かんで、慌てて画面から目を逸らす。 心臓の音が、少し早い。 行為を受け入れられるかなんて、 正直、やってみないと分からない。 未知すぎて、今すぐ答えなんて出せない。 でも―― (……高村となら) なぜか、無理だとは思わなかった。 不安はある。 怖さも、正直ある。 それでも、 「一人で放り出される気がしない」と、思えた。 (……あの時も、そう言えたら良かった) びっくりしただけだった。 追いついていなかっただけだった。 ちゃんと時間をかければ、 一緒に考えたいって、伝えればよかった。 何も言えなかった自分を見て、 高村はきっと、踏み込みすぎたと思っただろう。 謝らせてしまったのも。 距離を取らせてしまったのも。 全部、自分の未熟さだ。 (……ちゃんと、話そう) 日比野はスマホを手に取って、 連絡先を開く。 スクロールする指が、途中で止まった。 画面に表示された名前を、しばらく見つめる。 すぐに言葉は出てこない。 でも、もう逃げるつもりもなかった。 日比野は一度、深く息を吸って―― 静かに、息をはいた。

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