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第69話 言葉で確かめ合う

玄関先で靴を脱ぎ終え、二人は日比野の家のリビングに居た。 ソファに座る高村と、コーヒーを淹れてリビングのテーブルに運ぶ日比野。 高村の前にコーヒーを置き終えて、沈黙を破ったのは日比野だった。 「……この前は、ごめん」 それだけ言って、少し視線を落とす。 高村は一瞬驚いたように目を瞬かせてから、首を振った。 「俺も……変なこと言って、ごめん」 「…変なことなんか言ってない。大事な話」 日比野の言葉に、高村は微笑む。 「うん。ありがとう。…でも、急ぎすぎた」 高村は一度息を整えてから、ゆっくり続ける。 「日比野のこと、怖がらせたと思ってる。 ……ああいう言い方じゃなかった」 日比野は少し考えるように黙ってから、口を開いた。 「……正直、ちょっと焦った」 高村は日比野をまっすぐに見ている。 日比野が続ける。 「ちゃんと整理できてなかった。けど、嫌だったわけじゃない」 高村はその言葉を噛み締めるように頷いた。 「……うん」 日比野は小さく笑って、少し照れたように続ける。 「高村となら、もっと先も、ちゃんと考えられるし、一緒に決めたい」 二人の間に、また静かな沈黙が落ちる。 でも気まずさとは違う、落ち着いた空気だった。 高村が、ほんの少しだけ距離を詰める。 「…ありがとう。ゆっくりでいいし、無理に最後まで、進まなくてもいい」 高村の言葉に日比野が少し笑って答える。 「……でも、『抱きたい』んでしょ?」 冗談ぽく聞いてくる日比野の言葉に高村は眉を下げて困ったように答える。 「…それは、まぁ、そうだけど」 「俺が『高村のこと抱きたい』って言ったらどうする?」 日比野の急な問いに高村は一瞬迷ってから答える。 「……話し合うしかないけど、どうしてもって言うなら、別に構わないよ」 「そうなの?」 「日比野と愛し合うって意味では、どっちでも一緒だし。…俺は甘やかしたい側だから、『する側』のほうが好みってだけで…日比野の意思は尊重したいよ」 高村の真摯な言葉に、日比野は微笑む。 「…なんか良いな。やっぱり俺、高村のこと好きだわ」 「…急になに…?照れるな」 日比野の言葉に、高村は少しだけ笑った。 日比野が続ける。 「俺さ、男同士のそういうのとか、ちゃんと…調べてみたんだ」 そこまで言って、日比野は一度だけ言葉を切った。 思い出しただけで、胸の奥がきゅっと詰まる。 「……でさ。自然と、なんていうか……俺が『される側』で想像してたんだよね」 口にした瞬間、心臓がどくんと跳ねた。 恥ずかしさより先に、体の奥がじんわり熱くなる感覚があって、自分でも少し驚いた。 「それって男としてどうなんだろって、正直思ったけど…高村の今の言葉聞いて、なんか腑に落ちた」 「腑に落ちた?」 日比野は小さく息をはいて、視線を上げる。 「うん。俺、高村に甘やかされたいし、高村のやさしいところも、本気なところも……全部、受け止めたいから、これで良いんだなって」 日比野が照れたように笑って高村を見る。 高村はその笑顔を見て、目を細めた。 「…日比野って、すごいね」 「え?なにが?」 「強くて、やさしくて、可愛くて、かっこいい。 …好きが更新されてく、いつも」 その言葉に日比野は頬を赤くする。 照れながらも、日比野はそっとソファの上の高村の手の上に自分の手を置く。 ただ、触れているだけの距離。 それなのに、胸の奥がじんわりと熱くなるのを、二人とも感じていた。

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