82 / 90

*第76話 わかってるのに、認めたくない

日比野は最近、本当に困っていた。 理由は、わかっているようで、わかっていない。 いや、正確には—— わかっているけれど、認めたくないだけかもしれない——この変化を。 「……慧?」 名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。 「聞いてる?」 キッチンのカウンター越しに、高村が少し不思議そうにこちらを見ていた。 「あ、……ごめん」 ぼんやりしていた自分に気づいて、慌てて返事をする。 「なんか今日、ずっと上の空だね」 「……そう、かな…」 高村は少しだけ首を傾げて、それから、ふっと表情を緩めた。 「疲れてる?」 そのまま、自然な動作で近づいてくる。 高村の手が、そっと日比野の頬に触れる。 それだけで—— 「……っ」 小さく、息が詰まる。 「……慧?」 心配そうな声。 けれどその指先は、優しく撫でるように動いていて。 ただ触れているだけなのに、 そこからじわじわと熱が広がっていく。 日比野はぎゅ、と少し強めに自分の手を握った。 「…もし疲れてるなら、今日はやめとく?もう寝ようか」 高村の言葉に日比野はパッと顔を上げる。 「あ、違う。本当に…大丈夫だから…」 「…」 まだ心配そうな高村の服の裾を掴む。 「…ベッド…、行こ…?」 「……っ、もう…可愛すぎるって…」 風呂から上がりドライヤーをかけたばかりの前髪に軽くキスが落とされ、手を繋いで寝室に向かう。 少しだけ進んだあの日から、まだ最後までには至っていない。 高村が、受け入れる側の日比野の身体を心配して準備に時間をかけてくれているからだ。 ネットで調べた情報では、数週間から数ヶ月かかるとも言われていて——日比野は『結構かかるものなんだな…』なんて呑気に思っていた。 確かに初めは、痛みや違和感が少しあった。 でも、丁寧な高村のおかげか、それとも日比野が感じやすいのか、日比野の身体は思いのほか早く開いてしまった。 もう二度目には、腰から背中へ、這い上がるような疼きがじわじわと日比野を襲ってきた。 (なにこれ…、変だ…) 仕事が忙しいので二人で会えるのは週末だけ。それだって仕事によっては無くなる時もある。 今日はその『準備』の4回目になる日だった。 ベッドの上で、高村がやさしくキスをしながら、ゆっくりと日比野の中を探る。 指が入る時だけ違和感があるが、それ以降はゾワゾワとした気持ちよさが奥からどんどん湧き上がる。 (……やばい…っ、こんなの……) 今まで感じたことのない快感に日比野はシーツを強く掴んだ。 その様子を目ざとく見つけて、高村が声をかける。 「…痛かった?大丈夫?」 潤んだ目で首を横に振る日比野を見て、高村はやさしく額にキスを落とした。 「…今日はこのくらいにしとこうか…」 日比野の様子を勘違いした高村が、中断しようとしたその時。 (やめないで) 日比野の手が高村の腕を掴んだ。

ともだちにシェアしよう!