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第16話

 真っ黒な闇の中を、ただ闇雲に走っていた。息が切れ肺が潰れそうなほど苦しかったが、足を止めることは出来なかった。  追って来ているのだ。捕まってしまえば、また何をされるかわからない。迫り来る無数の手は、ただ絶望と苦痛しか与えない。  ただひたすら、逃げなければならない。  息が切れても、足が折れても、肺が潰れても。  捕まることだけは、絶対に出来ない。死んでも嫌だ。  闇の中に、笑い声が木霊する。  逃げているのに。  何処までも、この声と手が届かない場所まで、力の全てで逃げているのに。  何故、声は遠くならないのか。  何故、伸びる手は髪をかすめるのか。  どん! っと、突如何かにぶつかった。  したたかに打ち付けられた額から、ぬめりと生温かいものが流れ落ちた。  壁だ。  壁にぶつかり、そして行き止まった。  声は止まない。  手は迫り来る。  哄笑は耳を刺し、頭を直接殴られたような衝撃が全身を襲う。  戦慄する。  ここは、閉じられた箱の中。 『逃げ場なんて何処にもないよ、――』

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