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第17話
「――――――」
はっと目が覚めた。どきどきと収まらない心臓に手を当て、緋桐はきつく眼を閉じ、身を守るように体を丸める。
知らずに震えそうになる体を抱きしめ、ぐっと唇を噛み締める。
夢である。
今は。大丈夫。
そう言い聞かせるように胸の内に呟くが、体の震えは止まらず、手足はどんどん冷たくなっていった。
耐えていた瞳から温かいものが溢れそうになり、さらに強く唇を噛む。かすかに血の味が口内に広がる。
と、唇に温かいものが触れた。
はっとして眼を見開くと、男の温かな指の腹が撫でるように触れていた。
「噛むな、傷付く」
夢現にいる、ぼんやりとした声だった。低く甘さの増した声が、ふわふわと浮くように緋桐の耳朶を震わす。
驚く緋桐に、うっすらと群青の瞳を開いた桂樹が、夢心地のまま微笑む。親指の腹が、噛み締めた唇を解かせるようにそろりと撫ぜた。顔にかかった銀糸の髪を梳いて耳にかけると、そのまま後頭部に手を回し、頭を抱き寄せて胸に抱え込んだ。
「朝はまだ遠い。大丈夫だ。だから眠れ」
とくとくと、規則正しく打たれる桂樹の心臓の音が直接体に響く。頭上からはすうっと眠りに落ちてしまった桂樹の心地良い寝息が聞こえ、緋桐は収まりかけていた涙が再び溢れ出るのを感じた。
ぎゅっと桂樹に抱きつき、眼を閉じる。
大丈夫。
この中にいれば、怖いものなど何もない。
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