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4 汗ばんだ手で必死に革のハンドルを握りしめていた。運転席に座ったまま、周りから姿を見られないように背を曲げている。ハンドルに押し付けた腕のほうへ顔を埋めながら、表情を隠そうとした。 恥ずかしい、止めてくれ… 触れられてもいない、キスだけで限界まで勃起したモノへ、奴の熱い吐息が吹きかけられる。 涙が出そうだ… 「やめろ…っ、汗…、かいてるからっ…」 泣き声混じりで嫌がるのに。 俺が本気で嫌がる時に限って、コイツは動きを止めなかった。 「や…、め…っ…!」 拒否する声も虚しく、先走りでヌルついているハズの先端を、柔らかな舌の根の方へと押し付けられる。濡れた粘膜に亀頭からゆっくりと覆われていく感覚で、ゾクゾクと全身が震えた。 抑えきれない喘ぎ声が漏れ出していく。 「う"ぅ…っ、…ぁ、…ぁ…!」 声が響くと同時に丸めていた背中がビクビクと跳ねる。車内の窓ガラスが熱気で曇るようだ。 悪魔は助手席から俺の方へ体をしなやかに折り曲げている。既に俺の下半身へと、奴の頭や肩が覆い被さり、奴の体の下で何が行われているのかは見えなくなっていた。 "じゅぷっ、じゅるっ――。" 卑猥な水音だけが下から聞こえてくる。 悪魔は透き通るような白い髪を美しく俺の服の上へ広げながら、俺のモノを口淫している。 買った女に舐められてもこんな情けない声は出ないのに…。それにいつもは手で扱いて帰っていくだけのくせに、今日はなんで、キスも、こんなことまでもするのだろう…。 「はぁ…っ、…ぁあ…!」 俺の僅かな反応を見逃さず、奴は俺の弱点を掌握していた。弱い所ばかりを責め立ててくるから、情けない声が止まらなくなる。 でも、簡単に果ててしまう訳には… 「ン"ッ…!?そんな…っ…、奥っ…!」 グチュ、と潰れるような水音と共に、俺のモノは奴の喉奥まで咥え込まれてしまう。 売女でもやらねぇくらいまで、喉の奥の方までを使って扱いてくる。そのまま吸いつかれながら頭を上下に動かされたとき、チカチカと頭の中が真っ白に弾けた。 「イグぅッ、も…ぉっ…出るっ!出るから…っ!」 いつもならコイツに触れることさえ躊躇うのに、何も考えられる理性は無くて、咄嗟に悪魔の頭を掴む。奴の髪が手に触れ、上質な絹糸の束に触れたような感覚が、指の間を通り抜けた。 惚れた悪魔の口の中へ出してしまうことへの恥じらいが、俺を狂わせる。 しかし奴は、鍛え上げられた強靭な肉体のせいか、俺が力を入れてもその頭はピクリとも動かない。 「あ…っ、ぁぁあ…!」 涙を溜めながら屈辱的な声が漏れ出た。舐められてるのはコッチだっていうのに、女みたいな声で喘いで、全てを奴の咥内へ吐き出した。 ビクンと脈打つ昂りをねっとりと舐め上げてしゃぶり尽くされ、残っていたモノまで搾り取られていくようだった。 全部飲まれてる、コイツ、俺の精液を飲み干してる… 悪魔は誰彼構わずこんなことをするのか? いや、悪魔の常識なんて俺には到底理解できない…。 ぐったりとハンドルの方へ体を預けながら、尾を引く余韻で体がヒクンと跳ねる。 とにかく今は、もう、本当に恥ずかしい。奴の顔を見ることができなかった…。 体を弄ばれる度に、どんどん敏感になって、自分じゃないような嬌声を上げ、ますます痴態を晒してしまう。 俺のせいで乱れた白髪を耳にかけながら、悪魔が体を起こした。濡れた唇を赤い舌先で艶っぽく舐め上げながら、その瞳が俺を見つめる。 込み上げる羞恥心で合わせる顔も無いはずなのに、やっぱり奴に見惚れてしまう。 「…そんなに気持ちよかった?」 そう言って、悪魔はニヤリと笑う。俺の頬に伝った涙を親指で拭った。 「…っ」 最早、返す言葉もない。かといって、素直に頷く訳にもいかない…。目を逸らしたいのに、 視線を動かせない。 妖艶で赤いその瞳へ惹き込まれていく…。 エンジン音だけが響く中、不意に悪魔は、困ったように笑った。 「…そんなに見つめられると穴が開きそうだね、俺の顔に。」 低く響く声でそう言って、悪魔のほうが先に目を逸らした。 俺は奥底からひっきりなしに込み上げる恥ずかしさで、さらに真っ赤になる。バクバクとうるさい鼓動を聞きつつ、それでも漸く奴から目線を背けることができた。 悪魔は満足気に口角を上げながら、体重をドアの方へ向けるような動きを取る。 クソッ。またかよ。 またこのまま、俺を放って帰るのか…? 「また来るよ、ライラ。」と、悪魔は言って、ドアノブに手をかける。 車を降りるつもりか? それならばと、俺は直ぐに手を伸ばし、奴の腕を掴んだ。 「待てよ…」と、俺が引き止めると、悪魔は驚いたように振り返って、その瞳を見開いた。しかし直ぐにいつもの顔つきに戻り、妖しく微笑む。 「強引に引き留めるなんて、珍しい。…嬉しいよ。」 悪魔はそう言った。 嬉しい?何が嬉しいだ…。 勝手に帰って行くくせに…。 しかし、奴を引き留めたはいいものの、それは後先の考えのない行動だった。言いたいことは沢山あるが、言葉に詰まる。 そうして思い悩む前に、奴の体を小さな黒い影が覆い始めていく。 俺は直ぐに焦燥感に駆られた。 漆黒の粒子が嵐に舞うように渦を描き、みるみるうちに悪魔を覆う。赤い瞳の輝きだけが残像となって、掴んでいた腕の感触が消えてしまう。 「待てって言ったのに…!」 悪魔は忽然とその場から姿を消していた。

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