4 / 53
4ページ目
4
汗ばんだ手で必死に革のハンドルを握りしめていた。運転席に座ったまま、周りから姿を見られないように背を曲げている。ハンドルに押し付けた腕のほうへ顔を埋めながら、表情を隠そうとした。
恥ずかしい、止めてくれ…
触れられてもいない、キスだけで限界まで勃起したモノへ、奴の熱い吐息が吹きかけられる。
涙が出そうだ…
「やめろ…っ、汗…、かいてるからっ…」
泣き声混じりで嫌がるのに。
俺が本気で嫌がる時に限って、コイツは動きを止めなかった。
「や…、め…っ…!」
拒否する声も虚しく、先走りでヌルついているハズの先端を、柔らかな舌の根の方へと押し付けられる。濡れた粘膜に亀頭からゆっくりと覆われていく感覚で、ゾクゾクと全身が震えた。
抑えきれない喘ぎ声が漏れ出していく。
「う"ぅ…っ、…ぁ、…ぁ…!」
声が響くと同時に丸めていた背中がビクビクと跳ねる。車内の窓ガラスが熱気で曇るようだ。
悪魔は助手席から俺の方へ体をしなやかに折り曲げている。既に俺の下半身へと、奴の頭や肩が覆い被さり、奴の体の下で何が行われているのかは見えなくなっていた。
"じゅぷっ、じゅるっ――。"
卑猥な水音だけが下から聞こえてくる。
悪魔は透き通るような白い髪を美しく俺の服の上へ広げながら、俺のモノを口淫している。
買った女に舐められてもこんな情けない声は出ないのに…。それにいつもは手で扱いて帰っていくだけのくせに、今日はなんで、キスも、こんなことまでもするのだろう…。
「はぁ…っ、…ぁあ…!」
俺の僅かな反応を見逃さず、奴は俺の弱点を掌握していた。弱い所ばかりを責め立ててくるから、情けない声が止まらなくなる。
でも、簡単に果ててしまう訳には…
「ン"ッ…!?そんな…っ…、奥っ…!」
グチュ、と潰れるような水音と共に、俺のモノは奴の喉奥まで咥え込まれてしまう。
売女でもやらねぇくらいまで、喉の奥の方までを使って扱いてくる。そのまま吸いつかれながら頭を上下に動かされたとき、チカチカと頭の中が真っ白に弾けた。
「イグぅッ、も…ぉっ…出るっ!出るから…っ!」
いつもならコイツに触れることさえ躊躇うのに、何も考えられる理性は無くて、咄嗟に悪魔の頭を掴む。奴の髪が手に触れ、上質な絹糸の束に触れたような感覚が、指の間を通り抜けた。
惚れた悪魔の口の中へ出してしまうことへの恥じらいが、俺を狂わせる。
しかし奴は、鍛え上げられた強靭な肉体のせいか、俺が力を入れてもその頭はピクリとも動かない。
「あ…っ、ぁぁあ…!」
涙を溜めながら屈辱的な声が漏れ出た。舐められてるのはコッチだっていうのに、女みたいな声で喘いで、全てを奴の咥内へ吐き出した。
ビクンと脈打つ昂りをねっとりと舐め上げてしゃぶり尽くされ、残っていたモノまで搾り取られていくようだった。
全部飲まれてる、コイツ、俺の精液を飲み干してる…
悪魔は誰彼構わずこんなことをするのか?
いや、悪魔の常識なんて俺には到底理解できない…。
ぐったりとハンドルの方へ体を預けながら、尾を引く余韻で体がヒクンと跳ねる。
とにかく今は、もう、本当に恥ずかしい。奴の顔を見ることができなかった…。
体を弄ばれる度に、どんどん敏感になって、自分じゃないような嬌声を上げ、ますます痴態を晒してしまう。
俺のせいで乱れた白髪を耳にかけながら、悪魔が体を起こした。濡れた唇を赤い舌先で艶っぽく舐め上げながら、その瞳が俺を見つめる。
込み上げる羞恥心で合わせる顔も無いはずなのに、やっぱり奴に見惚れてしまう。
「…そんなに気持ちよかった?」
そう言って、悪魔はニヤリと笑う。俺の頬に伝った涙を親指で拭った。
「…っ」
最早、返す言葉もない。かといって、素直に頷く訳にもいかない…。目を逸らしたいのに、 視線を動かせない。
妖艶で赤いその瞳へ惹き込まれていく…。
エンジン音だけが響く中、不意に悪魔は、困ったように笑った。
「…そんなに見つめられると穴が開きそうだね、俺の顔に。」
低く響く声でそう言って、悪魔のほうが先に目を逸らした。
俺は奥底からひっきりなしに込み上げる恥ずかしさで、さらに真っ赤になる。バクバクとうるさい鼓動を聞きつつ、それでも漸く奴から目線を背けることができた。
悪魔は満足気に口角を上げながら、体重をドアの方へ向けるような動きを取る。
クソッ。またかよ。
またこのまま、俺を放って帰るのか…?
「また来るよ、ライラ。」と、悪魔は言って、ドアノブに手をかける。
車を降りるつもりか?
それならばと、俺は直ぐに手を伸ばし、奴の腕を掴んだ。
「待てよ…」と、俺が引き止めると、悪魔は驚いたように振り返って、その瞳を見開いた。しかし直ぐにいつもの顔つきに戻り、妖しく微笑む。
「強引に引き留めるなんて、珍しい。…嬉しいよ。」
悪魔はそう言った。
嬉しい?何が嬉しいだ…。
勝手に帰って行くくせに…。
しかし、奴を引き留めたはいいものの、それは後先の考えのない行動だった。言いたいことは沢山あるが、言葉に詰まる。
そうして思い悩む前に、奴の体を小さな黒い影が覆い始めていく。
俺は直ぐに焦燥感に駆られた。
漆黒の粒子が嵐に舞うように渦を描き、みるみるうちに悪魔を覆う。赤い瞳の輝きだけが残像となって、掴んでいた腕の感触が消えてしまう。
「待てって言ったのに…!」
悪魔は忽然とその場から姿を消していた。
ともだちにシェアしよう!

