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2 「危ない――。」 驚きのあまり転びそうになった彼の体へ咄嗟に手を伸ばしていた。 彼の体重のすべてが、グッと片腕に集まる。その途端、藁をも掴むかのように、彼の両手は反射的に俺の腕を掴み返す。 ひっくり返りそうだったその体がピタリと引き留められていた。ライラは未だ驚いた顔のままで、2人の視線が重なり合う。 「驚かせやがって…。つーか、覗き見かよ、悪魔は本当に趣味が悪いんだな…!」 そう言ったライラは頬を赤く染め上げて睨んでくる。パッと腕を離し、ライラは風呂場のタイルに手を付きながら距離を取るように後ずさった。 「…驚いた顔も可愛いな。」 微笑みながら彼を見れば、さらに顔を赤くして筋肉質の体を縮めるように身じろぐ。 降り注ぐシャワーが肌を濡らしていくのを感じてもそれを厭わず、一歩前に踏み出した。 「っ…また、襲うつもりか…?」 そう言って、筋肉の隆起する両腕で下腹部を隠そうとする。そう隠さなくったって、全部見たことがあるのに…。 「ライラだって不満だろう?もし、俺がこのまま手を出さずに覗き見だけして帰ってたとしたら…。」 そんな言葉を口走る俺の唇は自然と緩み、ニヤリと歪んでいくのが分かる。 「っ…!」 ライラはピクリと肩を震わせた。 ほら、またその目だ…。俺を拒絶したいくせに、寧ろ俺へ媚びるように熱っぽく、情熱的な(まなこ)だった。瞳は潤んで、露骨に欲望を灯しながら輝きを増していく。 たった一言で、ただ微笑むだけで…まるで真っ赤に熟れた果実のように頬や耳までもを染め上げていく。 「そうだよね、ライラ。違うとは言わせない。お前は俺を求めてる。」 引導を渡すように告げながら、ライラの左肩の上、ライラの背後にある湿ったタイルに手をついて、強引に距離を縮めた。 ザァザァと流れていくシャワーの音に包まれながら、ライラの吐息が乱れて大きくなっていくのが聞こえる。 見開かれた彼の瞳には、ほくそ笑む俺の表情だけが映り込んでいた。 「…ち、違う…。俺は…」 濡れて束になったライラの髪がフルフルと揺れて、水滴をポツリポツリと肩に落としていく。 違うだと? いや、違うわけが無いんだ…。 フッと鼻を鳴らして笑い、もっと顔を近づけてみる。それだけでなく、彼の(あばら)へ手のひらをそっと押し当てた。湯で濡れたしなやかな筋肉が張りを持って押し返してくる。 そうやって触れた瞬間に、ライラの喉が、ヒュッと鋭く息を吸い、縮むような音色を漏らしていた。ピクッと上半身が震え、その素肌の下に期待を秘めているのが分かる。 タイルに当てていた腕を折り曲げながら、半歩前へとにじり寄る。 ハァハァと息を荒くしている彼の唇は熱い吐息で湿っていた。閉じられることなく開かれた上下の唇へ、ゆっくりと己の唇を重ね合わせてみる。 「ん…、ぅ…っ…」 喘ぎ混じりの甘い吐息が糸を引くようなキスの合間で漏れていく。 伏せていた瞳を上げ、ライラの表情を眺めた… 眉頭を八の字に寄せながら眉間へ深い皺を刻む、耽美で悩ましい姿が見える。 口の端をきゅっと吊り上げながら、逃げていくように震える彼の舌を無理矢理絡めとった。

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