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第三章:『朽ちたロザリオ』

【第三章:『朽ちたロザリオ』】 (ライラside) 1 茶封筒の中にある数枚の書類を確認しながら、眉間に皺を寄せて唸る。封筒の中身は全て悪魔祓いの依頼書だった。 「ったく…。面倒な案件は全部俺に押し付けてきやがる…」 茶封筒と書類を纏めてテーブルの上へ投げ置いた。乾いた紙がバサリと音を立てる。 封筒に刻まれた教皇庁の印を恨めしい瞳で睨みつけた。 エクソシストとして、休む間もなく酷使されている。あぁ、そうだ。俺がどうなったって政府の奴らには関係がないんだろうな。 かと言って、最近増えている強力な悪魔憑きへの対処について、最終的には俺を頼る以外に方法が無いという現実もあるのだろう。 今回の依頼もザッと目を通す限り、他のエクソシストでは対処しきれなかった内容が多い。それだけ危険を伴うということだ。 「はぁ…」 そのままにしておくことはできなくて、暗い溜息を付きながらもう一度、書類へ手を伸ばす。 煙草を持った手を額にあて、紫煙を怠惰にゆったりと吐き出しながら、書類に(ひし)めく堅苦しい活字を追った。 「1人に5体から8体、ねぇ…。随分と大所帯なこった。」 フッ、と鼻を鳴らして笑う。笑い事じゃないんだが、そうでもしなければ腹の虫がおさまらない。こんな依頼に一人で向かえと言うのか? 常々感じていたが政府の奴らは頭が狂ってる。その首根っこを捕まえて、現場へ連れて行ってやりたいくらいだ。 「1番面倒なのから終わらせるか…」 実際問題、何体憑いていようがやることは同じだった。複数体に憑かれているというならば、トップで指揮を執る悪魔と、その配下となる悪魔がいる。そんな主従関係を築き上げているはずだ。 まずは主の方を引き摺り出して退治してしまえば、後はどうにかなる。 やってやるよ…。 不敵に微笑みながら、琥珀色の酒を煽り、喉へ流し込む。グラスの中で残された氷がカラン、と音を立てた。喉の奥が焼けるように熱い。 火の始末は忘れずに…と、煙草の火種を灰皿に押し付けた。 頭の中で、先ほど目にした依頼内容がグルグルと巡る。 きっと何体も抱えていたら…本人は相当辛いはずで、その周りの家族も苦しんでいるはずだ。 依頼を失敗したエクソシストは平気だろうか。気が触れておかしくなってないといいけど。 そんな事を考えながら、他の依頼にも目を通す。シビアな内容ばかりだな。 ふぅ、と、また深い溜息を付いて、体をベッドに投げ出した。宿屋の薄暗い天井の木目を眺めた。小さな蜘蛛が電球に巣を張って、獲物を待ち構えているのが見える。 ふと、あの悪魔のことを思い出した。 「ベルブ…だっけか…」 呟きながら、アルコールのせいで胃の中が気持ち悪い。消え入りそうな小さな電球の明かりに左手を翳す。 こんなちっぽけな手に、色んな重圧がのしかかっているのを感じていた。 「会いたい…」 消え入りそうな声で呟く。アイツと過ごす時間だけが、俺を全てから解き放ってくれる気がしている。じわじわと首を締め付けられ続けるような苦しみから、俺を壊して、どこかへ連れ去ってくれたらいいのに… なんて。 もう抑えきれないほどに、奴への想いを留めきれなくなっている。 「駄目だろ…。こんなの…」 左手を握りしめた。 俺は、悪魔の手の中に堕ちるわけにはいかない…。エクソシストとして、使命を全うしなければ…。 そんな誓いを蝕むように、奴とのキスの感触が甘く脳裏を掠める。口の中に広がったアイツの精液の舌触りや、嚥下した喉の奥が痺れるような感覚まで… 次第に鮮明さを取り戻す記憶が、アルコールに浮かされた俺の体温をさらに上げていく。 「ベルブ…」と、掠れた声で呟いた。 あぁ…体が熱い… 早く…触れて欲しい… 全身が甘い痺れを起こし、ズキズキと疼きだす。 奴が俺に、名前を教えた理由はなんなんだ…? エクソシストに名前を教える意味を、お前は分かっているはず――。 左胸の突起が腫れてきて、シャツに擦れる感覚にさえ声が漏れそうになる。汗ばんだ肌が淫靡な香りを纏いながら蒸気する。下着を押し上げる昂りに熱が集まるのを感じながら… 疼く場所へとそれぞれ両手を伸ばした。 奴がいつも触れていた場所が過敏になっているのが分かる… 「ぁ…、…っふ…ぅ…」 媚びるような喘ぎ声が漏れて… 目をギュッと閉じながら、歯をギリギリと食いしばった。 奴の動きを再現するように、指先を動かす。乳首を押し潰すように摘み、激しくペニスを扱いた。 「ぁ"…っん…!…ベルブ…っ」 もう、こんな姿さえ見られてもいい… あられもない痴態を晒したっていいから… 早く来てくれ… 鼻の奥がツンと熱くなり、視界が潤む。切ない喘ぎが漏れていくのを我慢せず、その行為に耽った。

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