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依頼を受けた翌日から、俺は既に動き出していた。必要な物を取り揃え、万全の体勢で臨む。
悪魔と対峙する際に何よりも重要なのは、自分の強い心と意思だった。
神の言葉を借りて命令を下す者としての、絶対的な自信。どんなことがあろうと自分を信じ抜けれなければ、どんなに低俗な悪魔にさえ勝てない。
それを俺は理解している。
そのまた次の日には、俺の足は既に依頼主の屋敷へ向かっていた。その足取りは確かなものだった。
また、暫くあの悪魔に会えていないという不満は苛立ち混じりであって、依頼の悪魔など早急に蹴散らしてやるという闘争心のようなものさえ燃え上がっている。
何体でもかかって来い…
神の名のもとに制裁を与えてやろう。
意気込みながら向かった先、依頼主の屋敷は立派な邸宅だった。
必死な形相で俺に縋る家主たちに、ある程度の話を聞いておく。その後、案内された先は、屋根裏にありながらも十分な広さを持った一室だった。
「私が出てくるまで、どんな音や声が聞こえても決してドアを開けるな。」
住人に厳しい眼差しを向けながらそう伝えると、悪魔用の結界も十二分に張り巡らした。その部屋から出すわけにはいかない。
ドアを開ける左手は、緊張で僅かに震える。ドアノブを握りしめ、グッと強く押し込んだ――。
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窓から冬の鈍い日差しが差し込んでいる。
穏やかな冬空と反対に、部屋の中には血と油や、排泄物が混じったような強烈な異臭が立ち込めていた。壁や床は獣のような爪痕が残り、カーテンなどはボロボロになっている。
「エクソシストだ。今からお前らを祓う。」
数メートル先のベッドの上で蠢く何かに向かって、堂々と告げた。躊躇いなく歩み寄る。
1歩1歩、近付くほどその正体が明らかになっていく。
血や汚物で汚れたベッドの上には、骨と皮だけになったような老体の婦人が横たわっていた。手脚はしっかりとベッドに縛り付けられ、自由には動かせないようだ。
目の下は真っ黒に染まり、口からは何か黒い液体が溢れ出している。白く濁った瞳が俺を捉えると、ニタリ、と不気味に微笑んだ。
「エクソシストか…。待ってたぞ…」
明らかに女性の声ではない、嗄れた男の声だった。
「ふっ。待っててくれたのか?熱烈な歓迎、ありがとよ。」
唇の片方をキュッと引き結びながら釣り上げ 、挑発するように鼻で笑う。一方で手の動きは止めず、スーツケースから道具をテキパキと取り出して、手馴れたように準備を進めた。
聖水を振りまきながら香を炊き、祈祷の言葉を紡ぐ。
その間、悪魔が何もしなかった訳ではない。ヘドロのような体液を口や鼻から吹き出して異様な姿を見せていた。血が滲みボロボロになった手が引き攣り、マットレスから中身が飛び出すほどに引っ掻き続けている。時に汚く下劣な罵詈雑言を喚き、必死に俺の気を引こうとしているようだった。
悪魔のそんな姿には目もくれず、淡々と事を進めた。滞りなく準備を終えると、いよいよ、聖書を片手に十字架を突きつける。
「それで、くだらないショーは終わりか?準備は整ったぜ。とっとと1番上の奴を出せ。」
シニカルな笑みを浮かべながら伝える。
さぁ、我慢比べの始まりだ――。
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