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3 「薄汚いエクソシスト。俺はサタンだ…。お前に俺は祓えんぞ…!帰ってクソして寝てろ!」 取り憑いた悪魔がカッと目を見開き、黒い液体で染まった汚い歯を見せながら笑った。 「ほう、サタンか。そりゃ怖いな。地獄の王のお出ましか?」 フン、と鼻で笑うと、悪魔の笑みは一瞬で消え、みるみるうちに恐ろしい形相に変わった。縛られた縄をギチギチと張り詰めながら、肢体を激しく動かす。 「殺してやる、地獄に魂を落としてやるからな…。知っているぞ、お前の信仰心は脆弱だ…!」 悪魔はそう言って、その声質は先程までの悪魔とはまた違い、さらに低い声の悪魔と入れ替わったように感じるが… まだ下僕の方の悪魔だな、と冷静に判断する。 「俺の全てをお見通しってか?そう言うなら、俺の名前を言ってみろよ。」 さらに煽るように伝えて、次の悪魔を挑発する。 「ヴゥウウ…!」 「なんだ、答えられないか。お前なんかがサタンなわけねぇよな。さっさと主を出しな?もっと苦しくなるぞ…」 そう言って、祈りを唱え始める。 「大天使よ…天軍の指揮官であるあなたはレギオンを滅ぼす。神がこの悪魔を抑えつけ――…」 十字架を握りながら言葉を紡ぐと、悪魔の取り憑いた体が激しく痙攣し始めた。彼女の白く濁った瞳が真っ黒に染まっていき、悶えるような声を上げて、縛り付けられたベッドさえも揺さぶるように体をはね上げる。 「ギイアアアアッ!」 耳を劈くような悲鳴と共に、ベッドのそばに置いてあった写真立てが突如として俺に飛んでくる。ロザリオを握る左手にゴツン!とぶつかった。ガラスの破片が鋭く皮膚を傷つけ、血が流れ始める。 「チッ、いってぇなぁ…。下級の悪魔だが、物を飛ばすくらいはできるのか。でもその程度じゃ俺は殺せんぞ。早く主を出せ…」 ニヤリと笑って告げると、流れていく血も気にせずに、さらに強く祈る。祈りを込めるように十字架を掲げながら、胸ポケットから聖水の入った小瓶を取り出し、容赦なく、ピッ、と振りかけた。 その途端に、部屋の空気が凍りつくように冷たくなる。ベッドの頭上、壁に取り付けられていた十字架が、グググ、と回転し始め、逆さまになっていくのが見える。 「本命のお出ましか?」 不敵に微笑み、次の悪魔が来るのを待ち構えた。取り憑かれている婦人の瞳が再び変化し、異様な黄金色の目に変わる。先程までとは違い、堂々たる風貌で体を横たえ始めた。 「エクソシスト…。お前の心の闇は深いようだな。」 悪魔の乗り移る婦人が再び口を開いた時、その声はまた違うモノに変わっていて、自信のある落ち着いた声色に聞こえる。 取り付いている悪魔の中でも、トップとして指揮を執る者が現れたことを確信した。 ここまでは計画通りだ…。 「俺の心配か?今はお前自身の身を案ずるべきだぞ。」 「エクソシストよ。弱い心から目を逸らし、酒に逃げているのか?男前が台無しだ。」 「ふっ、俺の弱みを握ろうとしても無駄だ。」 酒のことがバレてるが…恐らく俺の匂いや顔つきか、何かから判断しただけだろう、と冷静さを保つ。先程までの悪魔とは違い、少しは頭がキレるらしい。 下級の悪魔のリーダーではあるが、どれほどまでの力を持っているのか判断するべきだな。 「俺には分かる。その魂は穢れている…。悪魔に心を売ったな?エクソシスト…」 悪魔の一言で、ドキリと目を開く。なんだ、ベルブのこともバレてるのか…?まさか、コイツが記憶まで見えるほど強い悪魔には見えんぞ… 「ハッタリか?そんなものは通用せん。」 「ハッタリだと思うか…?悪魔の匂いがするぞ…。悪魔に体を汚され、悦んでいるな?俺もその身体を弄んでやろうか?」 「馬鹿げたことを。お喋りは終わりだ、名前を言え、悪魔め…」 コイツにどこまで見破られているのかは分からんが、図星を言い当てられ、耳が赤くなる。マズイな、コイツの話は聞かない方が良さそうだ。 「お前のような淫らなエクソシストに教える名前など無いぞ。俺に跪いて懇願してみろ、地獄のような快楽を与えてやる。貴様の体を隅から隅まで味わい、犯してやる…」 悪魔はニタリと笑い、蔑むように俺を見た。大丈夫だ、惑わされるな…コイツは全部は分かっちゃいない筈だ… 十字架を持つ手が震える、駄目だ、動揺するな… 俺は強い… 「神の御名のもと命ずる…名前を言え、悪魔め…」 「無駄だ、お前の信仰は脆い。罪に塗れたお前の魂など、神は救わない…!」 悪魔はそう言うと、勢いよく繋がれた縄を引きちぎった。 「っ…!」 咄嗟に身構え、後退する。 「犯してやる…この家の住人に聞かせよう、お前が阿婆擦れのように喘ぐ声をな…」 「はっ、かかって来いよ…。お前のような低俗な悪魔、この俺がねじ伏せてやる…」 そう言って睨みつけた時、悪魔は突然赤黒い飛沫を吐き出した。 「っ、汚ねぇ…」 咄嗟に腕を上げたが、体が謎の体液で汚れる。不快感を覚えながらも隙を見せず、悪魔から目を離さない。 不意を付くように悪魔は体をベッドから跳ね起こし、俺の方へ飛びかかってきた。素早くその両腕を掴み、押し返す。 「ぐっ…」 老体からは考えられない程の力で、俺を地面に押し倒そうとしてくる。 「随分と鍛えているな…抵抗を止めろ、俺がその体を蹂躙してくれる」 「っ、やめろ…!お前のような悪魔に…」 「どうした、悪魔に犯されるのが好きだろう?」 悪魔はそう言って、長い舌を見せて舌なめずりする。その下品な微笑みを睨み返す。額に汗が滲んだ。掴み合う腕がギチギチと悲鳴を上げる。全身の力を込めて体を押し返す。 「聖なる守護天使…この戦いにおいて、私の盾となり…っ…、この邪悪な者を遠ざけ…私を照らし…守り…」 祈りの言葉を唱え始めると、力比べをしている悪魔が激しく唸りながら抵抗し始めた。 「やめろ…!」と、悪魔の咆哮が地獄からの叫びのように部屋に響き渡り、最後の抵抗を見せるように力を解き放った。 「う"っ…!?」 突風に飛ばされるように体が押し返される。そのまま跳ね飛ばされて、ドンッ!ガシャンッ!と、大きな音を立てて窓枠と壁に背中を強くぶつけた。 「ゴホッ…!」 背中への強い衝撃で一瞬息が止まり、詰まらせた息で咳をする。窓ガラスが飛び散った地面に手を付きながら、直ぐに体を起こそうとした。目の前に落ちている十字架へ、痛みに耐えながら、震える手を伸ばす。 「俺を祓うなどさせんぞ…!」 「黙れ…っ、薄汚い悪魔…神は俺の味方をする…!」 必死に十字架を構えた。悪魔は直ぐさま俺に飛びつき、胴体にしがみつく。 「暴いてやる…お前の淫らな欲望を…」 そう言って、俺の服を脱がそうとする。 やめろ… その手で触れるな… 怒りと羞恥心で顔を赤くさせながら体を捩らせて抵抗し、十字架を握りしめた。勢いよく服を引っ張られ、ボタンが引きちぎれる。 俺はとにかく、悪魔の額を目掛けて腕を伸ばし、十字架を押し当て、強く祈りの言葉を唱える。 「ギィイイイッ!」と、おぞましい声を上げて悪魔は悶える。十字架が触れる額から黒煙が上がった。 「名前を言え…!地獄に落とす…!」 「誰が…名前など…言うものか…っ! 」 悪魔は抗いながら、俺を苦しめようとする。全身の骨や筋肉が何かに締め付けられるように軋み、息が詰まる。 「っ…ぐ……!」 呼吸ができなくなってきて、祈りを紡ぐ口からは言葉が出なくなる。 焦るな… 逃げ出さず、祈り続けろ… 心の中で唱えればいい… 「神は居ない…!お前はココで死ぬ…!」 悪魔はそう言って、口から泡を噴いている。全身が痙攣し、俺を押さえつける力が弱くなっていくのが分かった。 しかし同時に俺も、体に力が入らなくなってくる… 苦しい…苦しい… 全身が痛い… 耐えろ… これは悪魔との我慢比べだ。 神の力があればこのような悪魔など… 心の中で必死に祈りを繰り返した。しかし、悪魔は、そんな俺を嘲笑う。 「お前の罪は赦されるはずが無い!エクソシスト!お前は神への冒涜を繰り返した。神はお前を助けんぞ…!」 「っ…」 ドキリと心臓が跳ねた。 そうだ、俺の罪は赦されるはずがない… 悪魔に惚れて何度もこの体を… こんな俺を神が救うはずが無い…のか…? 「その体に悪魔の匂いが染み付いているぞ…神の香よりも強く…」 悪魔の肌はひび割れ始め、その存在は殆ど灰と化そうとしていた。 まだ倒せる… もう少しで… 悪魔の声を聞きながら、意識が遠のきそうになる。酸欠で頭が回らず白目を剥いた。十字架を掴む腕を握られ始め、爪がくい込んで血が滲む。 助けてくれ――… 神は俺を見放したのか――… 神でも悪魔でもいい… ベルブ… 助けて――

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