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(ライラside)
数日後。
俺は田舎道の道路に車を走らせながら、次の宿に向かっていた。ポツンポツンと並ぶ民家を見つめながら、煙草を咥えている。
宿はこのあたりだろうか。古びたモーテルを見つけ、車を停めた。
しかしこんな場所にも、悪魔が現れるとはな。人の少ない小さな街だ。何が目的の悪魔だろうか…。
借りていた部屋に入ると、依頼書をもう一度読み始める。
「"強力な悪魔と見られる…"か。それにしても情報少なすぎだろ…。"悪魔祓いを対応しようとした地元の神父が入院…"って、まぁ、詳しい話が聞けねぇってことか。素人が余計な首突っ込むからこうなるんだ…」
地元の神父、恐らく悪魔祓いの経験も無く、公認のエクソシスト以外が手を出すのは危険だと分かっていたはず。それでも対応しなくちゃならない羽目になったんだろう。
とりあえずシャワーを浴び終えると、明日に備えて道具を整えた。
これで準備万端だが…
嫌な予感がしている。妙な胸騒ぎがして、落ち着かない。
この街一体が、異様な空気を纏っているような…。
「まぁ、人が少ねぇのと薄気味悪いだけか…。」
そう呟きながら、もう一服しようとした時。
ドンドンドン!
激しく部屋のドアを叩かれて、ビクリと振り返った。
「神父様!神父様…!大変です、悪魔の仕業です…!今すぐに来てください…!」
そんな声が聞こえて、俺は慌ててロザリオを首にかけながらドアを開けた。
「はぁはぁっ…。神父様…古い教会から火が上がって…中に市民が居るのです…!」
「古い教会…?そういや、今回の依頼場所も教会だったか?」
「そうです!あの教会の持ち主、隣に家があるのですが…その住人が悪魔に乗っ取られていて…!あっ、私は、この街の市長です、申し遅れました…今回、ライラ様に依頼を送ったのは私です…」
白髪の老いた男はそう言って、俺の手を握る。
「神父様…!どうか…お助けください…!火の手を消そうとしてますが、地獄の業火のように消えません…」
ワナワナと震える男はそう言って、青ざめた顔で俺を見つめる。
「落ち着け。神は貴方と貴方の街を救う。神の愛を受け入れろ。」
そう言うと、皺の刻まれた彼の手の甲に神の愛を込めてキスを落とし、祝福を与える。
「ありがとうございます…!お願いしますっ…!」
「すぐに行く。道具を持って向かうから、残っている住民を非難させておけ。教会には近づくな。」
「わかりました!」
そう言って、彼は慌てて走り出していく。
ふと、日が沈んでいく空を見て、冷や汗を流す。
「分が悪いな…。夜に決闘か…。全て仕組んでるように思える。俺が来るのを察してるようだな、悪魔め…。」
呟きながら、部屋に戻り、既に準備を終えていたスーツケースを抱える。
夜は悪魔の力が強まる、避けたかった時間帯だが、仕方あるまい。悪魔の憑依が強まり、教会に火をつけるほどに動くとは。強力な悪魔だろう。
夜のうちは祓えなくても、朝日が昇るまで拘束できればなんとかなるかもしれん。
そう思いながら部屋を出ようとドアに手をかけると、ドアノブが押し込めなくなっている。
ガチャガチャ、ガチャガチャガチャ…!
「なんだ…開かない…?」
戸惑いながらも、荒っぽく蹴り飛ばそうと身構えたとき――…。
「ライラ。ごきげんよう。」
無数の羽音と共に、ベルブの声がして、ハッと振り返った。
「ベルブ…」
美しく細い髪が白いシルクの糸のようにふわりと靡く。赤い瞳はルビーのような妖しい輝きを放ち、俺を真っ直ぐに見つめていた。妖艶に微笑む唇が艶やかに動き…
「…ライラ。取り込み中かな?」
ベルブの美しさに見惚れていたが、ハッと我に返る。
「あぁ、タイミングが悪いぜ…今は相手にしてられねぇんだ。コレはお前の仕業か?早くドアを開けろ…」
ベルブは肩を竦め、俺の方へ距離を詰めてくる。
早く教会へ行かねぇと…!
なのに、ベルブの美しさから目が離せない。こんな状況なのに、会えたのが嬉しくて心臓がうるさくなる。
「ライラ、今夜は俺と過ごそう。朝まで一緒に居るよ、ずっと抱き締めてやる。どうかな?」
甘い声でベルブはそういうと、俺の腕を握った。
「あ、朝まで…お前が…?」
「そう。ライラ、分かるだろう?この間の悪魔祓いで、ライラは弱ってる。」
ベルブはそう言ったあと、俺を包むように抱擁した。
「行かせたくない…。俺の傍に居ればいい、そうすれば、傷付くこともないよ。」
ベルブはそう言って、俺の耳に軽くキスを落とす。
俺の顔は熱くなって、ベルブの腕の中で身を縮めた。
行かせたくないだと…?
嬉しい…。俺だって…逃げ出したいくらいに怖い、相手が強力だって分かってる。
でも…
「行かなきゃいけねぇんだよ…。守らなきゃ…」
「駄目だ。俺と居よう。ここから出さないよ…」
ベルブの口調はいつに無く強くて、命令するような低い声だった。ベルブの顔を見ると、どうしてか、奴は至極真剣な顔付きだ。
ドキドキしてしまう…
まるで俺の事、守ろうとしてくれてるみたいで…
この間も助けてもらったばかりだし、こんなに優しくされると…
どうでも良くなりそうだ。
ベルブと朝まで過ごせるのか…?
いつもコイツはすぐ帰るくせに、俺がこのままここに入れば、朝まで俺を抱くつもりなのだろうか。
体が熱くなる…
また数日間も放ったらかしにされて、何度もお前を思って自ら慰めたんだ。
「ライラ…。俺と過ごそう…?」
悪魔の甘い囁きに、理性が溶けそうになる…
いや、駄目だ…
俺は…ここの悪魔を祓わないと…
「俺は行く…!早くココから出せ、ベルブ…!」
苦しさで喉が詰まりながらも、強い口調で告げる。ベルブは美しい顔を顰め、冷たい瞳で俺を見た。
ベルブの腕が震えて、赤い瞳が揺らぐ。
そうか、名前の効力か…?
「っ…ライラ、そこまで言うなら…」
ベルブは俺の言葉に抗えないようにそう言って、ドアに手をかざす。
「出られるようにしたよ。でも…ライラが行くと言うなら、条件がある。」
「条件だと?」
「その悪魔祓いに、俺を連れていけ」
「なんだと…?悪魔祓いに、悪魔のお前を連れていくなど…!」
「邪魔はしない。もしもの時のために控えているだけだ。身は隠しておく。誓うよ。もし余計なことをしたら、祓えばいいだろ。俺の名前はもう与えてる。」
ベルブは真面目な顔付きでそう言うと、俺の手を強く握り直す。
いつもの妖艶な雰囲気は影を潜め、男らしい逞しさを感じて、それはそれでカッコよくて、ドキッとしてしまった。
「…分かった、仕方ねぇな。でも邪魔するなよ…。それに聖水や香も使う。聖なる力に当てられないように気をつけろ…」
俺はそう言って忠告しながら、ベルブが同行することを承諾した。
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