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4 (ライラside) 教会に辿り着くと、火の手は鎮火しているようだった。市長は火が消えないと話していたのに… 黒く焦げた不気味な教会は、まるで俺を迎え入れるようにそこに佇んでいた。 ここの悪魔は何を企んでやがる…? どうやら狙いは俺のような気がする。俺を待ち構えているというのを察していた。 「ベルブ…俺がやる、悪魔の狙いは俺だろ…。お前は下がっててくれ…」 「…分かったよ。」 焦げた匂いのする教会に入ると、様々な物がボロボロに焼け落ちていた。 ベルブがふと、唸るよう呟く。 「教会らしさを感じない場所だな…。」 「丸焦げになってるから無理もないだろ。」 「いいや、聖なる力というものをまるで感じないんだ。長く使われてなかったんだろう。」 「そうか…古びた教会と聞いてたが。なるほど、廃教会だったか。中に市民がいると聞いたが…見当たらんな。」 懐中電灯を持ちながら辺りを見回すが、人影も見えず、物音も聞こえず、その場は静かに鎮まりかえっていた。 「…どうだろうね」 ベルブは意味深に呟き、徐に祭壇へと歩き始める。 「なんだ…何かあるのか?」 「見ろ。地下室への道だ、地下と言えば…カタコンベか。」 「カタコンベ…?地下の古い共同墓地か?こんな場所に…?」 「ふん、そうだね。どうも死者を祀ってるようには見えない…でも、この下から気配はあるよ。」 「行くっきゃないな…」 そう呟くと、ゆっくりと地下へ繋がる階段を降りていく。埃っぽい匂いが鼻の奥に纏わり付き、喉がイガイガした。 地下へ降りると、薄暗い道には蝋燭の灯火が、まるで俺を奥へ誘うように灯っている。 背後にはベルブが居た。悪魔に背中を預けるなんて有り得ないことだったけれど、不思議と安心感が湧いていた。 道を曲がりながら暫く歩くと、遂に開けた場所に出た。辺り1面に置かれた蝋燭はその地下室を照らしだし、黒い布を被った者達が複数人跪いているのが見えていた。 「おい…」 躊躇いながら話しかけるが、彼らはピクリとも反応せず、何か祈るようにボソボソと唱え続けている。 「そうか、…悪魔崇拝か。」 納得したように呟いた。壁には様々な動物の頭蓋骨が並べられ、逆さに向けたボロボロの十字架が打ち付けられていた。 「エクソシストが来たぞ。悪魔を出せ!」 確かな口調でそう告げると、黒い布を纏う人影がモゾモゾと振り返り始めた。手前に居る男が顔を覆う布を取り、40代くらいの中年男性の顔が見え、黒い液体を吐き出しながら笑った。 「エクソシスト…ついに来たか…」 低く響くようなおどろおどろしい声で告げる。そしてすぐに隣の男が、同じように顔を見せながら笑った。 「地獄に連れていくぞ、エクソシストよ…」 そして更に奥の女性が体を覆う布を剥ぎ取りながら声を上げる。 「俺はレギオン…お前の魂を奪う…」 次々と憑依を繰り返しながら、悪魔は話しかけてくる。 胸元のロザリオに伸ばしていた手が震えている。コイツ、かなりのやり手のはず。今の俺に祓えるのか…? …いや、祓うしかない。 動揺を悟られないように言葉を返す。 「複数人に憑依するのか…なかなか階級の高い悪魔らしい。お前の目的はなんだ?」 そう尋ねたとき、乗り移られた女性が異様に肢体をくねらせながら、自らの服を引きちぎった。白い肌が顕になり、乳房を晒しながら、傷だらけの体を見せつける。 「お前の死だ…!」 女性は悪魔の声で叫びながらそう言うと、その体に血が滲んでいく。 "ここに神は不在だ" と、傷跡が文字を刻む。 確かに悪魔崇拝者の根城だ。強い悪魔と夜に対峙し、こんな場所で… なにもかもが不利に思えた。 いや、相手の手口に惑わされるな…! 「ふっ…そうかよ。なら試してみるか…?」 挑発し、隙を作る…。名前を聞き出さなければ…。 俺は既に香を炊き始めていて、その香りを辺りに振り撒く。大きな十字架を握りしめながら、祈りの言葉を唱え始めた。 悪魔は抗うように、その場の人間達の口を借りて叫び始めた。 「お前は同胞を葬り過ぎたのだ!俺は地獄の裁きをお前に処す!サタンの使いだ…!」 企みはそれか…。やはり俺を狙っていたらしい。 「そうかよ。それで俺を呼んだか?」 「そうだ。この場所では神の祈りも通じんぞ。彼らの悪魔崇拝によって、神の力も遮る。淫らなエクソシスト…妻の元へ帰らず、売女との夜はどうだった…?」 悪魔の罵倒が響いたとき、動揺で肩がビクリと震えた。 「っ…何故それを…」 「お前の罪が見える…お前の穢れた欲望が神を遠ざけるのだ。分かるだろう…?ライラ神父…」 「…」 コイツ、名前まで分かってやがる… 市長が乗り移った奴に俺の名前を話したのか?それを聞いていただけだろう…? いや、それとも本当に全て見えている…? 冷や汗が止まらなくなる。焦るな、こちらが隙を見せては… 「俺は地獄の指揮官…お前が相手にしてきた悪魔のようにはいかんぞ…。地獄の裁きのためにここに来たのだ…」 思わず後ずさりしながらも、祈りの言葉を唱えた。しかし、悪魔は俺の祈りを打ち砕くように呟いた。 「ライラ神父、無駄だ…」 乗り移られた人間達が一斉にそう告げて、何かを示すように天井を見上げる。 それに釣られて同じように上を向くと… 長く顔を見ていない妻が、他の男と絡み合う光景があった。艶めかしく鮮明に、目の前で行われているように、完全に再現されているようだった。 「っ…やめろ…!妄想だ…騙されるな…」 「妻は他の男にうつつを抜かしているぞ…お前が放ったらかしにしているからな…。お前は何をした…娼婦の体を弄んだか…?」 「っ…俺の罪は赦されている…!懺悔を受けた…!」 「懺悔など無駄だ、罪を重ねて…ほう…他にも淫らな関係があるのか…?」 「み、見るな…っ!やめろ…!俺の記憶を覗くな…」 膝が震えて、立てなくなる。悪魔に知られたら…終わりだ… 守護天使の祈りを唱え、悪魔を遠ざけようとする… 「っ…!」 足を何かに捕まれ、ハッと顔を伏せた。俺の足を真っ黒い手がつかみ、下へと引っ張ろうとしている。気づけば身体中に真っ黒な腕が伸ばされていて、体が動かない。 「やめろっ…!お前は神の御名のもとに裁かれる…!」 「裁かれるのはお前だ、ライラ!お前の1番の罪を見抜いてやる…これでお前は神から見放されるぞ!」 「っ…」 「あぁ、やはり…これはなんだ…?男と関係を持っているのか?男と交わるとは、神への教えに冒涜を重ねているようだ」 目の前にベルブの姿が見えて、ベルブの手で甘い喘ぎを上げる俺の姿が再現されていく。 「やめろ…っ、やめろ…!」 顔を真っ赤にさせて叫び、体を押さえつける腕を振りほどく。 「…おや、待て…この男…悪魔の…、こ、これは…なんだ、お前…なぜ…」 悪魔は戸惑ったように声を詰まらせる。なんだ、なぜ動揺してる…? その時、冷たい風が吹き抜けて、蝋燭の明かりが掻き消されていく。真っ暗で、何が起こっているのか分からない。 十字架を握りしめた。 「ベルブ…!どこにいる…、何も見えない…!」 「大丈夫。手出するつもりは無かったけど。これ以上知られるのは面倒だ。」 ベルブの声が返ってきて、地下室に響き渡る。声が反響するせいで、どこにいるのか分からない。不安が募り、暗闇の中を身じろぐ。 「な…なぜ…ここに…!」 「少し黙ってくれ。あっちに帰ってくれないか。」 「俺はその神父を裁きにきたのだぞ!」 「その必要は無い。帰る気が無いなら…」 ベルブとあの悪魔が話している声が聞こえた。これが奴の言ってた交渉ってやつか? いや、ベルブが悪魔を脅しているようにしか聞こえん…。 次の瞬間、あの悪魔の恐ろしい断末魔が響き渡った。 「お、おい…ベルブ…何があった…!?」 「お帰りいただいたんだ。もう終わりだよ、帰ろう。」 「は…?アイツを殺したのか…?」 「違うよ、帰ってもらっただけ。穏便に済ませた、大丈夫。」 いやどう聞いても穏便に済まされたような声じゃなかったけど… ふわり、と1つの蝋燭が灯り、それを持ったベルブの姿がぼんやりと照らされた。 「ベルブ…」 「ここに居る、ほら、行こう。」

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