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第五章:『禁断の果実』
【第五章:禁断の果実】
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(ライラside)
暗い地下室から出ると、廃教会のステンドグラスから月明かりが差し込んでいた。
どこかノスタルジックで幻想的な雰囲気だ。
ベルブの美しい髪は月の明かりを受けて透き通るように煌めく。ミステリアスな雰囲気を纏ったまま、ベルブは優雅に振り返った。
「警告した通りだね。危なかった。俺がいなかったらどうするつもりだった?」
そう言ったベルブの額には皺が刻まれ、白磁のように美しい肌に陰影を残す。厳しい眼差しが俺を捉えている。
「…そんなこと言われても…。これが俺の仕事なんだ…。命を賭けてやってる…」
そう告げると、ベルブは更に表情を歪め、俺を睨みつけた。
「…許さない。ライラ…お前は俺のだよ。他の悪魔に魂を奪われるなどあってはならない。」
強い口調でそう言うと、ベルブの手が俺の腕を掴む。
ドキリとして、ベルブの真紅の瞳を見つめ返した。
俺の、だって…?
なんだ、まるで…俺に執着してるみたいじゃないか…
「っ…お前のだと…?勝手に決めつけるな…!」
顔を真っ赤にしながら言い返すと、ベルブは苦虫を噛み締めるような表情を浮かべた。
は…?なんでそんな顔をするんだ。傷ついたような顔をして…
「…人が来る。今日は帰る。」
「お、おい…ベルブ…待て、まだ話が…」
「黙れ。俺に指図するな…」
ベルブは冷たく吐き捨てて、闇の中へ紛れるように姿を消していく。
嘘だろ…?なんだよあの目は…。
俺、もしかして嫌われた…?
焦燥感に駆られながらも、どうすることもできず、戸惑う間もなく足音が聞こえ始める。
「神父様…!ご無事でしたか…!」
「あ、あぁ…。悪魔は祓われた。市民は地下室に居るが光源を失ってる、様子を確認できない。無事だと思うが、すぐに助けを呼んでくれ。」
冷静を装いながらそう告げる。
「ありがとうございます、神父様…。お疲れのようですね…。あとはお任せください、どうぞ、休息をお取りになってください…」
「そうさせてもらう…」
ポツリと呟き、市長に背を向けて宿へと歩き出す。
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宿に着くと、エクソシストの服を脱ぎ捨て、とりあえずシャワーに向かう。
「チッ…んだよ、これ…」
体には、先程の戦いで、黒い手に掴まれた際の手跡が内出血を起こしたように全身に残っていた。
「気色悪ぃな…」
足をガッシリと掴まれた感触を思い出し、地獄に連れていかれるような感覚が胸を掠めて、背筋がゾクリとした。
嫌な記憶を振り払うようにシャワーの蛇口を捻り、汗を流す。
「はぁ…本気で怒ってたよな…。俺のせいか…」
小さな声で呟き、ベルブのことを思い出していた。
あんなふうに…執着心を見せられて…嬉しいのに、頭の中は混乱してる。
俺はアイツにとってなんなんだ…?
どうして俺の悪魔祓いにまで首を突っ込んで、助けようとしてくれる?
まさか、本気で俺のことを想ってくれてるいるのか?
だとしたら…
赤く染まっていく頬を感じながら、濡れた壁に手をついてもたれかかる。
いや、もしそうだとしてもどうするんだ…
今は形だけになってしまったけど、俺には妻も居る。
それに、あの悪魔を想うほど、エクソシストとしての自分が崩れていく気がしていた。
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