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第七章:『魔界からの足音』
【第七章:魔界からの足音】
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(ライラside)
「っ!?」
朝…!?
ガバッと布団から飛び起き…ようとしたが…。
俺の体をグッと押さえるものがあった。腹筋にググッと力を込めたまま、横を見る。
ベルブの白くて長い腕が俺の体をしっかりと抱き締めていた。
クソ…綺麗な顔だ…
昨日のベルブ凄く激しくて…
いっぱい俺のナカに…何度も…
あぁ、好き…
などと、心の中で独り言をポツポツと漏らしながら、赤くなっていく顔を両手で覆った。
「おはよう、ライラ。」
そんな声でハッと我に返りベルブを見ると、彼は片目を開けながら不敵に微笑んでいた。真紅の美しい瞳がひとつ、こちらを見ている。
小っ恥ずかしい心の呟きを悟られまいと、彼を睨みつけた。
「は、放せよ…ベルブ…」
ぐぬぬ、と体に力を込め、体を起こそうとする。ベルブはわざと腕に力を込め、俺を放そうとしなかった。
「どこ行くの?もっとそばに居よう」
「ぅ…。仕事あるんだよ…。目覚ましかけるの忘れてたけど起きられて良かったぜ…」
チラリと時計を見ながら呟く。
「ライラ、身体大丈夫そうだね。」
ベルブは優しく微笑む。その表情に見惚れながら、再び顔が赤くなるのを感じた。
「俺の対応力舐めんなよ…ちったぁ慣れてきたんだ、たぶん…。認めたくねぇが…」
「へぇ。さすが、百戦錬磨のエクソシストは違うね。あれだけ激しくしたのに…」
ふむ、と俺を研究し観察するようなベルブの様子を見ながら、恥ずかしさが込み上げてくる。
「うるせぇ…。とにかく、報告書をさっさとまとめて教皇庁に行かなきゃ。」
「そうか…仕事するなら邪魔しないようにするよ。」
ベルブは寂しそうな表情をしたが、どこか聞き分けの良すぎる子供のように、パッと腕を直ぐに緩めた。
「あ、あぁ…」
拍子抜けしたような返事をかえしながら、ベッドから立ち上がる。ベルブは宣言通り、邪魔をしない、ということを守るためか、寝室に残るようだ。ベッドに横たわって動かない。
その姿を見つめつつ、椅子にかけていた部屋着用のガウンを羽織る。名残惜しくもベルブを残しながら廊下に出た。
「腹減ったな…」
昨日、ベルブが運転する車で店に立ち寄って、少しだけ食料とコーヒーを買ってきてもらっていたことを思い出す。
パンを焼いて、適当にオムレツを作った。インスタントのコーヒーを入れて、テーブルに並べる。
一人で過ごすことが多かったから、簡単なものなら作れるようになっていた。
「おい、ベルブ!」
寝室に向かって声を出す。
「どうした?ライラ」
ブブブブッ、と言う虫の羽音のような異音と共に、ベルブが俺の背後に一瞬で現れた。声を上げながら振り返る。
「うわっ!?…チッ、驚かすな…!やめろ、それ…!」
「あぁ、ごめんね。つい、癖で…」
ベルブはそう言うと、俺を見つめながら、そのままギュッと抱きしめ始める。
「…っ…なんだよ…」
一気に心臓がうるさくなった。ベルブに包まれるように抱きしめられると、何もかもがどうでもよくなって…
「ライラが居たから抱きしめただけ…」
「お前は…よくもそんな恥ずかしいことを躊躇いもなく…っ」
「…あれ、いい匂いがする…朝食?」
「…あぁ…そうだ。簡単なもので、悪魔の口に合うかも分からんが…」
そう言うと、ベルブは突然俺から腕をバッと離し、唖然とした表情をする。
「俺の分があるの…?」
「そう…だけど…?」
「…ライラが…?俺に…?朝食を?作ったって?」
「な、なんだよ…そんなに驚かなくても…」
ベルブはテーブルの上をチラリと見た後、顔を伏せるように斜め下へ俯く。白く長い髪が表情を覆った。
「おい…ベルブ…?」
ベルブの様子に戸惑いを隠せず、何があったのかと、表情を覗き込んだ。
「…嬉しい」と、ポツリと呟くベルブは、その白い肌を薄紅色に染めていた。ベルブの綺麗な瞳は下を向き、いつものように目線が合わない。
「っ…」
ドキッとして、俺も慌てて俯く。
おい…そんなに急に照れるなよ…
悪魔のくせに…
俺の方がドキドキしてしまう…
「…お、お前な…そんなに喜ばなくていいだろ、大袈裟だな…。食えよ…冷めちまうぞ…」
「そうだね…ありがとう…ライラ」
ベルブはそう言って、さり気なく俺の頬にキスを落とす。ドキッと顔を赤く染めつつもそれを受け入れた。
ベルブはそっと俺から離れて椅子に掛けるから、俺も向かいに座った。ベルブのことを何度も見つめてしまいながら、コーヒーを啜る。
別に簡単に作ったオムレツなのに、ベルブは嬉しそうに食べてくれた。
キュッと胸が締め付けられるような感覚で、今度はもっとちゃんとしたものを作ってやろうと密かに思った。
「美味しいよ、ライラ…。ライラの作るオムレツ、好きだ。優しい味がするね。」
「…そ、そうか…。また…作ってやらんこともない…。お前が…喜ぶなら…」
消え入りそうな声で呟きながら、真っ赤になった顔を隠すようにフローリングの方へ視線を落とす。
「あぁ、また作って欲しいよ。ライラ。」
ベルブの柔らかな返事を聞きながら、いつの間にか忘れてかけていたような、心に沁みる甘い幸福を噛み締めた。
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