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2 (ライラside) 数件分の悪魔祓いについての報告書をまとめあげると、スータンを纏い、資料をカバンに入れた。 時刻は正午前だ。玄関に向かいながら、リビングでチェス盤を触っているベルブに声をかける。 「ベルブ」と話しかけると、ベルブは優雅に俺の方を振り返った。 「ライラ。行くのかい?」 「あぁ。報告をして、新しい依頼を受け取って帰ってくる。そんなに遅くはならないけど…お前はここに居るつもりか?」 「そうだね。ライラが戻ってくるのなら、ここで待ってていいかな?」 そう言って俺を見つめるベルブの瞳に吸い込まれそうになって、顔を赤くする。 「…あぁ、分かった。なるべく早く…帰る…」 「うん、待ってるね、ライラ。」 ベルブはそう言って、俺の腕を掴んで引き寄せる。そのままキスをされて、ベルブのワイシャツをギュッと握りしめた。 「ん…ぅ……」 触れ合うだけの長いキスから、ベルブは次第に角度を変えて何度も唇を押し付けてくる。 「ぁ……はぁ…っ」 舌を絡め取られると、体の奥からじんわりと熱を帯びるように熱くなってきて、息が上がる。 これから教皇庁に向かうっていうのに…こんなキスされたら… 「ベル…ブ…っ」 ベルブの胸板を押し返す。ハァハァと荒くなった呼吸を繰り返しながら、ベルブを見つめた。 「やめろよ…そんなキスされたら…体が熱くなっちまうだろうが…」 「ごめんね、行かせたくなくて。そばに居てほしい。帰ってきたら…俺に構ってくれるかい?」 「っ…分かってるよ、お前との時間を作る…」 「…うん、ありがとう。大人しく待ってる」 ベルブはそう言って、俺を玄関先まで送り届けてくれた。 ーーーーーーーーーーー 「ライラ神父。この悪魔は通常とは違ったと?」 深く刻まれた皺をさらに眉間に寄せながら、真向かいに座る枢機卿が尋ねてきた。 教皇庁にある、華美な造りの応接室の一室で、差し出されたコーヒーを飲みながら、俺は頷く。 「あぁ。経験を積んだエクソシストでも太刀打ちできないほどに。」と、枢機卿に向かって冷たい声色で返した。 実際に、あの廃教会の悪魔祓いの時は、俺でも太刀打ちができなかった。報告書にはベルブが、悪魔が、エクソシストの俺を助けてくれたなんて書くわけにはいかないから、俺が一人で対応を済ませたように書いてあるが…。 枢機卿は手元にある報告書に顔を俯かせたまま、銀色の眼鏡のフレームの上から瞳だけをこちらに向け、訝しげに俺を見る。 あぁ、めんどくせぇな。 コイツ、嫌いなんだよな…。悪魔をあまり信じちゃいないし、悪魔祓いを馬鹿にしている節がある男だ。 一方で、枢機卿の隣に座っていた司祭。コイツは悪魔の存在を深く信じている。恐れ戦くような表情で、俺の報告書を読んでいた。 「階級の高い悪魔だったのだな、ライラ神父…。記憶までも操り、幻覚を見せ、ライラ神父の名前までも知っているとは…」 司祭はそう呟いて、青ざめた顔で俺を見た。 「そうです。ここまで強い悪魔は私も初めてだ。そしてこれからもこのような悪魔が増える可能性がある。公認のエクソシストたちには、よりしっかりとした訓練を積ませるべきです。」 まともに話が通じる司祭に向かって俺はそう告げる。一方で枢機卿は気難しい顔をして、資料を机に置いた。 「ライラ神父。そう仰るが、エクソシストの対応する悪魔祓いの殆どのケースが精神疾患によるものだ。悪魔などにわかには信じ難い。このような報告書で手柄を得るつもりなら…」 枢機卿の言葉でグッと拳に力が入り、彼を睨みつけ、それを遮った。 「俺は手柄なんか求めちゃいない。分からねぇのか?俺に対する世間の評判も、増え続ける悪魔憑きの騒動を落ち着けるために、教会側が勝手に俺に押し付けたんだろうが…。」 「枢機卿殿、ライラ神父の受けている案件は精神疾患などでは済まされませんぞ。彼は実際に死者や怪我人が出た案件を請け負っているのです。それに…あの話を、ライラ神父の耳にも入れておくべきです…」 俺はうんざりとしながら窓の外を眺めた。たまにこうして俺の味方をする奴はいるが、悪魔祓いに対して疑念を持ってる奴らも多い。 俺がどんな目に遭ってるかも知らず、卓上で御託を並べる呑気な野郎たちだ。 「…例の件は悪魔とは関係が無い、彼に告げる必要は…」 「しかし悪魔の印のようなものが体に…」 なんだかゴタゴタ言っているが、俺は席を立った。 「帰らせていただきます。失礼。」 あぁ、早く帰りたい。 ベルブに会いたい。 背を向けて歩き出そうとすると、慌てたような司祭の声が俺を引き止めた。 「ライラ神父、耳に入れてもらいたい話があるのです…!」 仕方なく足を止め、振り返る。 「実は最近、精神に異常を抱えた者が急増している。彼らは皆、悪魔の召喚印のような…怪しい印を体に残している。寝たきりになっている者や、意識はあってもまともに意思疎通ができない者などが増えているのです。多くの人々が悪魔に狙われている可能性がある…。なにか見つけたら、報告と、対応を願いたい。」 司祭は真剣な顔付きで告げるが、その隣で枢機卿は溜息を付いている。 「…分かりました。気にかけておきます。」 俺はそう告げて、堅苦しい教皇庁の空気を嫌いながら足早にその場を後にした。

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