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(ライラside)
「ライラ、どうした?不機嫌そうだね…」
玄関のドアを開けて俺を出迎えたベルブは、俺にキスをした後にそう言った。
「…はぁ。ちょっとな…。イラつくことがあっただけだよ。」
抱擁をしてくれるベルブにそう告げて、彼に癒しを求めるように抱きしめ返した。
「そうか…。教皇庁で嫌なことが?」
ベルブに尋ねられて、小さく頷いた。
あぁ、まじであの枢機卿…。
いつも鼻につく奴だ…。
頭の中では枢機卿への恨み節を唱えながら、嫌なことを忘れるようにベルブの肩に顔を埋める。
「ライラ。俺に話せる話?」
「…あぁ、いや…まぁ…。教皇庁の中のことだから、秘密厳守にしねぇと…」
「…そうか。聞いてあげたかったけど、残念だね。」
あぁ…また俺は。コイツを悪魔だからと、どこか線引きをしようとしてしまう。残念そうなベルブの顔を見ると、胸が痛む。
ベルブは悪魔だ、教会の敵だ…。話すのは良くないよな…。些細なことでも、良くないに決まってる…。
「…悪いな、誰に対しても、口外は禁止されてることだから。」
そうだ、たとえ悪魔でなくても、教皇庁であったことを話すのはご法度だ。殊更、悪魔に対して告げるのは良くないことだろうが。
胸に残る罪悪感にモヤモヤとしたものを感じながら、ベルブの腕の中で安心感を得ようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「ライラ、実はね。」
ベッドの上で、背後から俺を抱きしめるライラの声に耳を傾ける。
「…あぁ」
ベルブと一度体を重ねたあとで、汗が冷えていくのを感じていた。喘ぎすぎて掠れた喉で、唸るように返事を返した。
煙草の煙を吸い込んだら、乾いていた喉がさらにイガイガと乾燥する。喉に残る不快感を咳払いして直しつつ。
後ろからしっかりと抱きしめられるベルブの存在からは、甘く気怠くも心地よい余韻と安心感を覚えていた。
「…少しの間会えないかも。」
ベルブが背後から、俺の肩に顔を埋めながらポツリと呟く。
煙草を持つ手が僅かに震え、胸がズキッと傷むような感覚になった。
「…そ、そうか。なにか予定があるのか?」
嫌だ、耐えられねぇ…。ベルブ…居ないのかよ…。
「…向こうの世界に、戻らないといけなくて。なるべく早く人間界 に戻ろうとは思ってるよ。」
「向こう…?地獄…!?魔界…!?」
振り返りながら身を乗り出して尋ね、エクソシストとしての知的好奇心が出てしまう。ベルブは驚いたように目を開けたあと、ふっ、と笑った。
「魔界って呼んだ方がソレっぽいかもね。地獄は別にあるから。」
「ほう…」
もっと詳しく聞きたい…という感情が沸きあがるが、それよりも今は、ベルブがしばらく居ないという事実によって不安と寂しさが大きくなっていく。
「とにかく、数日間か、数週間になるかも…。期間を明確にできなくてごめん。早く戻れるようにはするから…。俺のこと、待ってて欲しいんだ。」
ベルブがそう言って、俺をギュッと抱きしめた。
信じたい、信じている…
だけど、不安になる…
何のために魔界へ行くんだ?
でも、俺はエクソシストだし、人間だし、どこまで深く聞いていいのかもわからない。
ベルブからも、聞いてくれるなって雰囲気を感じる…。
エクソシストが悪魔を警戒するように、悪魔だってエクソシストを警戒するよな。
無理もないことだ…。
でも、やっぱり辛い。
それに、ベルブは本当に俺なんかのところに戻ってきてくれるのか…?
ザワザワと胸の中に不安が広がって、俯いた。
「…ちゃんと…俺のところに戻ってきてくれ…」
「もちろんだよ。ライラ。必ず、来るから…。俺を信じて…」
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