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(ライラside)
宿に着くと、仕事終わりのルーティンのようにまずはシャワーを浴びた。浴室から出ると石鹸の香りに包まれながら脱衣所に向かい、濡れた髪をタオルでゴシゴシと拭いていく。
そのとき、ふと、鏡に映る自分と目が合う…。
首の根元や胸板に残っていたはずのあのキスマークが殆ど消えかけていることに気づいた。
「ベルブ…」
アイツの残した痕が薄くなっているのを見つめながら、その場所を指でそっと触れる。
早く会いたい…。
いつ戻ってくるのだろうか。
ここ数日はそればかりを憂いていた。
1週間が過ぎて、そろそろ2週間だ…。いつ戻るか分からないと言ってたが、遅すぎるだろう…。
「はぁ。」と、深いため息を付きながら、脱衣場から出ると即座に寝具の方へ向かう。
疲れた体をベッドに投げ出しながら、思い浮かべるのはもちろんベルブのことだ。恋しさや寂しさが複雑に込み上げて、ベルブを想いながら自分の体に触れた。
「ベルブ…っ…、早く……俺に触れてくれ…」
ベルブが魔界に行ってしまってからと言うものの、ベルブを想う度に熱くなる体を自分で慰め続けてきた。
ベルブの愛撫を思い出しながら、火照る体を鎮めようと必死になる。
でも、どうしても自分で触るだけじゃ足りなくて…
「はぁ…っ、クソ……っ…」
ペニスは勃ってんのに、扱いても溜まってるモンを出せなくて、結局、悶々としながら寝るしかなくなる。
恥ずかしながら自分でケツの方を弄ってもみた。気持ちいいけど、なにをやってるんだと冷静な自分が降りてきて…毎回こちらも途中で萎えてしまう。
「あぁ…ベルブのでっけぇので……ガンガン突いて欲しい…」
勃起しながら我慢汁だけが垂れていくペニスを扱きながら、体の奥が疼いてアナルに触れる。やっぱり指だけじゃ物足りないし、自分で触っても、もどかしさだけが残る。
体が疼いて…なのに気持ちよくなれなくて…
欲求不満だ…!
あの瞳で見つめられたいし、キスもしたい、セックスも…。寂しさを埋め合わせてくれるほどに、早く激しく抱かれたい。
こんなの耐えられない…。
もしこのままアイツが居なくなったら、こんな体でどうやって過ごせと…?
精神的にも肉体的にも、奴無しでは生きられない体にされたとでも言うのか…?
「あの…っ、悪魔め……」
こんなことがあっていい訳ねぇ…。聖職者が、こんな形で悪魔に依存して…。
だけど気持ちを止められるはずも無かった。
電話で声だけでも聞くだとか、そういうのもできないし…。まさに、会えないほどに急速に想いが募るような感覚だった。
「はぁ……っ…ん…、ん"…っ…」
左胸の突起を弄りながら、後孔に指を深く挿れる。掻き乱すようにして指の動きが淫靡になっていく。
エクソシストが悪魔を想いながら、このような行為に及ぶなんて…。
恥ずかしい、屈辱的だ…。そう思うほど何故か興奮してくる…。体も心もベルブに囚われている。
今もし…ベルブがあのいつもの突然の登場で、俺の前に現れたら。
たぶんきっと恥ずかしさで爆発しそうになる。ベルブにこんな痴態を目撃され、辱められたら…俺はアイツに必死でキスを求め、疼いたこの穴をアイツに向けて懇願するだろう。
「あぁ…ベルブ…っ、…早く……っ…もう、耐えられねぇ…っ」
潤んだ視界の中で、恋しさと不安が膨らむ。本当に…ベルブは俺の所へ戻ってくるんだろうか。こんな…悪魔の敵である、俺の所へ…。
「うぅ…っ…」
情けない呻き声が漏れる。鼻の奥がツンと熱くなって涙が落ちそうになるから、枕に顔を埋めた。
感情が昂って、グズッ、と鼻を鳴らしながら体を丸く縮める。
そのとき――…。
"コンコン…"
宿の窓ガラスが音を立てた。まるで、ノックをするような音だ。
「な、なんだ…?」
シーツを裸体に手繰り寄せながら、窓の方を警戒して見つめる。
"コンコン…"
再びその音が鳴った。やはり、確かにこの部屋の窓が、外から何者かによって叩かれている。
ここは2階だぞ…。人間の仕業じゃないのは確かだ。悪魔…?
まさか…。ベルブか…?
慌てて泣き顔を拭う。シーツを体に寄せるように掴みながら、ベッドから降りた。
音がした窓ガラスの方へ近づき、慎重に外を覗く…。
「誰もいねぇ…」
夜空と静かな街並みがガラス越しに見えるだけで、悪魔の影も見えない…。でも確かに、ノックされたはず。
ベルブめ、驚かせようとでもしてるのか…?
外を確認するように窓ガラスを開けたその時――…。
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