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第二十五章:『創造主』

【第二十五章:創造主】 1 (悪魔side) ーーーー数十分前のことーーーー 俺が風呂場に駆けつける少し前の事だ――。 「あぁ、魔界からの遣い…。ライラ、先にお風呂に入っててもらっていい?何か連絡が来たみたい。要件を聞いたら、すぐに行くから」 分身に家事を任せて、せっかくライラと離れずに過ごせると思っていたのに…。 城の窓辺から見えるベランダの石塀に降り立った烏を見て、俺はそれが魔界からの頼りであることを察した。キラキラとした赤い宝石のような目を光らせ、烏はジィっとこちらを見ている。 「魔界から…?何か悪い知らせじゃなけりゃいいが…」 「大丈夫。俺がルゼブに調べ物をお願いをしていて、その連絡だろうね。心配しないで?」 魔界から連絡が来たと伝えると、ライラは不安そうにしていた。しかし、ライラにも伝えた通り、これは俺たちの日々を脅かすような事態が魔界で発生したのだとか、そういうものでは無い。ルゼブに頼んでいた案件がある。 …そう、俺は、ライラと今朝見に行ったあの穴が、ずっと引っかかっていた。 あの穴を作った悪魔が気になって… 俺は魔界に居るルゼブに頼んで、高位の悪魔や体の大きな悪魔たちを調べさせた。人間界であのような穴を作った悪魔が居るのかどうか、分かる範囲でいいから調べてほしい、と依頼していたのだ。 風呂場に向かうライラの背中を見守りながら、その窓を開ける。烏は雨が降っているのに濡れていない黒い翼を広げ、外へと差し出した俺の右腕に向かって滑空した。 「…書斎に行くか。少し待て…」 烏の方へそう呟き、この体を一瞬で城の書斎へと飛ばす。 自分の書斎に辿り着いたら、壁にかかっていた上半身が映る程度の、額縁のような鏡を浮かせて外した。その鏡を書斎の机の上に立てかけ、そして椅子に腰掛ける。 腕に乗せていた烏はパタタ…と羽を数回上下させながら飛び跳ね、その脚を机の上へ着地させた。烏はトト、と歩き出し、鋭い爪先が机を叩く。自ら鏡の方へと向かうと、その鏡面へ、ズズズ、と吸い込まれるように消えていった。 その途端、鏡の中が黒く染まる… 『兄様…!今日もお美しい…』 そんな声が鏡から発せられた。 漆黒の鏡面はまるで水面に波紋が広がるかのように揺れ始め、そこにぼんやりとルゼブの姿が見えてくる。 「ルゼブ、なにか分かったのか?」 『えぇ、もちろんですとも。兄様が僕に頼みごとをしてくださること、とても光栄です…!ですので、徹底的に調べさせました…』 ルゼブがそう返した頃には、鏡の中に写り込んだルゼブの姿は鮮明になっていた。 ルゼブも恐らく、鏡か水晶か何か、表面が反射するような物を通して俺を見ているのだろう。ルゼブはその表面を愛おしそうに撫でるかのような手つきで触っているらしい、鏡一面に奴の手がベタベタと伸びてくる。 「…ルゼブ。すまないが急いでる。結果を教えてくれ」 そう伝えた時、鼻の奥に何か埃っぽい感覚が走って、ゴホッと小さく咳をする。 『兄様…!?どうされたのです!』 ただの咳払いに過剰なほどの反応を見せたルゼブが青ざめた顔で覗き込んでくるから、奴の顔が鏡に広がる… 俺は鏡の中へ呆れた表情を向けた。そして喉の中のイガイガと残る不快感を払拭するように、胸元へ手を当ててもう一度、短く咳払いをする。 「大丈夫だ、問題ない。分身に城の掃除をさせてる。埃っぽいところでも掃除してるんだろう、その感覚が…」 『そうですか…!兄様の創る分身もさぞお美しいことでしょう…』 目を細めて恍惚と呟くルゼブに小さく溜息を漏らし、額に手を当てる。 「それで、結果は?」 早く風呂場へ行かないと…。ライラが寂しく待っているはずだ。 『結果ですが……やはりそのような悪魔は居ない、ということがわかりました…!』 ルゼブは得意げにそう答えて胸を張る。 「…見つけろとまでは言ってないが…。居ない、というのが答えか?」 鋭く視線を向けながら尋ねると、ルゼブはその肩を丸くさせる。 『兄様、見つけるのは無理です…。なぜなら居ないのですから…。魔界の記録や、魔族たちにもかなり広く確認を取りましたが…』 「…そうか」 『しかし何故、そのような悪魔が居るかどうかを調べているのです?』 「…人間界に大きな穴ができてな。俺もライラと現場に行ってきたんだ。悪魔が居た気配はあるのに、魔力の痕跡は無かった。しかしとてつもなく大きな穴で…」 と、続けて、俺が今朝この目で見た物をルゼブに伝えた。 『…そうですか。それは不思議な穴ですね…。悪魔が集団で行った仕業でしょうか…?』 「確かにその可能性もある。集団、あるいは、余程大きな悪魔か」 『えぇ。しかし目的が理解できませんね…。低俗な悪魔たちがなにかしようとしているのでしょうか』 「分からんな。それに……悪魔の仕業には思えん遣り口であることも引っかかる。魔界でも妙な動きを見せる魔族たちがいないか、警戒しておけ」 そう告げると、ルゼブはその右手を左胸へと押し当て、頭を少し下げる。 『えぇ、兄様…。お任せください』 ルゼブのその様子を見て微笑み、「調べてくれてありがとう。何かあれば報告しろ」と、告げて、その魔力の通信を切ろうとする。 しかしその時、慌ててルゼブが俺を引き留めた。 『兄様、そう言えば…。報告すべき内容か否か迷いますが、1つ、よろしいですか』 ルゼブのそんな一言で、もう一度俺は深く椅子に座り直す。 「なんだ?手短にな」と、焦燥感に駆られながら告げると、ルゼブは頷く。 『実は、魔界で…』 ルゼブが話し始めたその時だった―― 脚が急に熱くなる。 なんだ、あの分身… 熱い場所にでも入ったのか…? 直ぐに全身が熱くなって、戸惑いながらもルゼブを見ている。 『魔界で、行方不明の悪魔が出ているようで…』 勝手に胸が高鳴るのはなんでだ… 心臓がうるさくて、ルゼブの話どころでは… 「行方不明だと?どうせ不用意に人間界に上がってきて、エクソシストに葬られたとか、そういう類じゃないのか」 そんな言葉をルゼブに返しながら、熱い体のせいで額に汗が滲む。 完全に分身の仕業で、奴の感覚が俺に伝わってきているせいだ。体の変化の原因は分かっているが、あの分身め…暖炉の傍で掃除をしているのか? いや、これは、火に当たった時の暖まり方とはまた違う…。 まるで、温かい風呂に浸かっているかのような………。 まさか、分身… 命令をもう終えてしまって、風呂場へ向かった…? あれだけの家事を与えたのに、あの分身は…ライラの傍に行くために考えられないスピードを持って、城の掃除を終わらせたというのか…? 『エクソシスト…その可能性はありますが…。しかし、厄介なエクソシストは…その、兄様の…は、…は、…伴侶…』 伴侶という言葉を使う時に表情を歪めるルゼブを見ながら、俺は冷や汗をかいている。いや、普通に暑くて汗もかいているが…。 あの分身… ライラが風呂場にいるのを気配で見つけて、ライラに構ってもらいに行っているに違いない…! 『ゴホン。あの、元エクソシストが居なくなりましたから…』 「ライラか?」 『え、えぇ…。ですから、簡単に祓われる悪魔も減ったでしょうに…。それにエクソシストが祓った悪魔は地獄へ堕とされます。行方不明の悪魔たちは地獄にも居ないと父上様が仰っていて――…』 「っ……」 ルゼブの言葉を聞きながら、俺の体が勝手に跳ねそうになる。何とか踏みとどまって、ルゼブの視線を嫌うように顔を伏せた。 分身の体が触れられていることが分かる… しかしそれだけなら、俺にとってもただの感触にしか過ぎない。今この時も身にまとった服や背中に触れている背もたれの感触のように、無意識的に考えずに済むものだ。 だが、体が……妙に興奮するような…この特別な感覚…… あぁ、嘘だろう。 ライラが、分身を触ってる――…? 『兄様…?』 マズい… ルゼブは俺の変化に敏感だ…。 ルゼブが何かを疑い始めている。 これは良くない、下半身が熱い。弟の前で何をやってるんだ俺は…! 「とにかく行方不明で、その原因も分からないんだな。なら…」と、俺は、言葉を紡ぐ。 …まだなんとか、俺は冷静にルゼブに話している。 が、完全にペニスは勃起してる。 分身がライラに興奮してるということが身をもって分かってしまう。 「行方不明になった悪魔たちに共通点がないか、調べておけ。あまりにも行方不明となる者たちが増えるなら、別の脅威かもしれない。この件も警戒しておいて損は無い…」 『…そうですね。天界のお咎めに当てられたのでしょうか?』 「天界だと?あそこは関係無い。今の天界は人間界にも魔界にも中立に近しい。空の上から見物をしているだけだ」 あぁ…全身が………気持ちいい… 何をしてるんだ、分身め… 勝手にこの体が興奮をさらに高めて、悦んでいる… 『そ、そうですね、兄様。天界は関係ないですよね…』 「あぁ。奴らは気にしなくていい。失踪が増えるようならまた知らせろ。そろそろ時間だ、また話そう」 『に、兄様…!もう終わりですか…?もっと話したいです、兄様…』 「…悪い、危機的状況だ」 『危機的…!あの人間と…喧嘩でもなさったのです!?』 「…嬉しそうにするな。違う。も、もう限界だ。またな、ルゼブ」 と、この状況がバレてしまう前に、慌てて鏡を伏せる。 「…弟の前で恥を晒すところだったぞ、分身め…」 頭を押さえながらそう呟き、椅子から立ち上がる。 布を押し返す昂りのせいで歩き辛いし… 俺は直ぐに姿を移動させた。 "ブブブブブッ……" 蝿たちが翅を擦り合わせる音だ。 俺の体は黒い霧のように細かく散って、一瞬でライラの気配がする場所へと姿を現した。 湯けむりの中、眼前に広がる光景を見て、やっぱりな、と再び頭を抱える。 椅子に座った俺の分身は泡まみれで脚を開き…。その股の間でライラが膝をつきながら、この俺の方にその臀部を晒している。 「んぁ…、…へ……?」 ライラは俺の現れる音に気づいた様子だ。俺はライラの背後に立っているせいで彼の顔は見えないが、ライラは口を大きく開けたまま疑問を浮かべるような声を漏らしている。 呆れ返った視線を分身に向けた。分身の俺は、不敵に微笑んで俺を見ている。 「お、おい……ベル、ブ……?」 ライラはそう言って、状況を掴もうと分身の俺の方に話しかけている。彼の鍛え上げた身体の向こうで、その濡れた銀髪が揺れて後頭部が震えていた。 そしてついにライラが、バッと俺の方へ振り返った。 「ベルブ…!?」 ライラは俺を見て心底驚いたように目を見開き、口をあんぐりと開けている。彼の口の中にある俺たちの契約印が見えてしまうほどだ。 ライラは俺を見つめながら数秒考えるように止まったあと、突然その体を分身の足元へ寄せてしゃがみ、俺から逃げるように体を丸めて小さくなる。 ライラはまだ分身の方を本物だと思っているらしいな。 全く… こんなことをしていたから分身が興奮して、本体の俺の体までも反応してしまう訳だ…。 「…ライラ。俺は魔界と通信してたんだ。分身とイチャつかれたら困るよ…!」 「…え……?」 分身の足元に隠れるように身を寄せていたライラが、さらにその瞳をまん丸と開ける。 「は…?…嘘だろ…?こ、コッチが…分身…!?」 ライラはそう言って、彼の直ぐにそばに居る分身を見上げる。 『あぁ、バレちゃったね…?でも、俺が分身だとか、関係ない。俺はライラが好き』 「そ、そうか……。っ、じゃなくて…!」 分身とライラがくだらないことを話している。 嫉妬はしているが、言わばこの分身は俺でもある。再現は完璧だ、俺の血から創られている。 ライラが分身だと気づかなければ、彼が分身に流されるのも当然だろう。それよりも今は、弟の前で危機的状況を迎えていたことの方が堪える…。 ライラは漸く全てを理解した様子だ。その顔を真っ赤にして、両手で顔を覆ってしまった。恐る恐る、と言った様子で、ライラはその指の間から俺を盗むように見てくる。 そして直ぐに俺と分身を見比べるかのように、キョロッキョロッと何度も交互に見てくる。 そして何故か、全裸であることが彼の羞恥心をさらに刺激したのかもしれないが、ライラは自分の体を隠すように身を縮こませる。 「…わ、悪い…。分身だと気づかなくて…」 「…いいよ。そんなことは気にしてない。俺は分身に怒ってる」 『ふん。なぜ怒る?だろ?得をしたと思え』 「黙れ…。今すぐ消すからな」 即座に右手を翳し、分身を解く魔力を放とうとする。しかし… 『まぁ待て。俺たちのライラだろう?2のはどうだ?』 「…俺…だと?勘違いするなよ。だが……は興味深い…」 「…は!?お前ら、何を言って……!」 やはり俺だ。こういう部分は気が合うらしい…。ライラも俺たちに釘付けな訳だし、どんな反応を見せてくれるのかは気になる…。 『決まりだ。役割分担を…』 「待て、挿入は許さんぞ」 『それは俺が…』 「キスも駄目だ」 『それは不平等だ!全て公平にするべきだぞ!』 そんなことを話し合っていたら、ライラが体を低くしながら風呂場から逃げようとしているのが目に入る。 「逃がすわけにはいかないな…」 『ライラは逃げないよ、ちょっと怖がってるだけ』 「怖がってるのか?なら、やっぱりやめた方が…」 『いや、ライラは受けて入れてくれる。そして多分凄く感じてくれる』 「それに関しては同意見だ」

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