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3 (悪魔side) ガーゴイルのような屈強の悪魔を1匹引き連れながら、通路を奥へと進んでいく。この悪魔、名前は確かグラウィタと言ったか…。確か先鋭部隊の部隊長だったな。 グラウィタはランタンで先を照らしながら、俺の数歩先を進んでいた。 「…ベルブ様。臭いが強くなってきました」 グラウィタは僅かに振り返りながら嗄れた低い声で呟き、その黄色く鋭い眼差しが素早く俺を捉えた。 グラウィタの肌は岩のようなくすんだ灰色で、ザラザラと乾いた皮膚がランタンの光を受けて暖色に染まり、暗闇の中に浮かび上がる。ワニやトカゲを彷彿とさせる顔立ちには尖った突起物が無数に生えており、狭くなってきた通路で上を向いた2本の立派な角が時折天井と擦れていた。 「…あぁ。ところでグラウィタ。その角はなんとかならんのか。うっとしいだろう」 思わず先程から気になっていたことをふと口に出してしまうと、グラウィタは突然ピンとその背筋を伸ばして振り返る。そのせいでまた彼の角はゴツッとぶつかる音がした。奴は恐竜のような太い尻尾をグルリと体の方へ巻き寄せて、2mを超える大きな体を小さく縮こめる。 「…ベルブ様。私の名前を…」 そんな返事が返ってきて、俺は首をかしげて見つめ返す。 「…なんだ?俺は名前を間違えたか?なんという名前だ、教えろ」 「…いえ、私は、グラウィタです…。ベルブ様が私のような者の名前を認知してくださっているとは…」 「当然だ。ここに連れてきた家来たちの名前は覚えているぞ。それより、お前の立派な角はこの水路で削れてしまいそうだな、隠せば良いものを」 ふん、と鼻を鳴らしながらグラウィタを見つめて少し口角を上げると、グラウィタは突然跪く。 「申し訳ございません、ベルブ様。変化の術は不得意でして…。不快にさせてしまい…」 「…そうか珍しいな。そのようなことで謝る必要はない、少し気になっただけだ。先を急げ」 「は、はい…」 グラウィタというこの悪魔…。変化の魔術も使えないというのに、先鋭部隊の隊長格か。しかし奴の魔力は相当なものだと伺える、変化は容易にできそうに思えるが……もしかするとその力は戦闘に特化したものなのかもしれないな。 家来を連れてきて俺の足手まといになることを面倒に思っていたが…その心配は解消できそうだ。 そんなことを考えながら、周囲に他の悪魔の気配が無いかを確認するために、感覚は研ぎ澄まし続けている。 グラウィタの言う通り…腐敗臭のような臭いは強くなってきているが依然として悪魔の気配は感じない…。 さらに奥へ進み続けると、その臭いだけは強烈なものになっていった。 「…グラウィタ。悪魔の気配は感じ取れないが…この臭いはさらに強くなった。ただの獣の死骸かもしれんが、警戒を強めろ…」 「…御意」 グラウィタはワニのような大きな足をヒタヒタと地面につけ、足音をほとんど立てずに歩いている。その時、グラウィタがふと、その足を止めた。 「…ベルブ様」 「どうした?」 「こちらを…」 グラウィタはランタンの灯りを左前方へ傾ける。煌々と光る中で、左右の壁など同じ景色ばかりが続いていたのに…。グラウィタが照らし出した左側には、壁がボッコリとえぐり取られたように突然無くなっていた。 「…あの悪魔の穴だな」と、静かに呟く。その穴からは異臭が漂う。しかしライラと見に行った山にあった穴ほど強烈な臭いではない…。 グラウィタはランタンを穴の中へそっと翳し、警戒しつつ身を乗り出す。 「…恐らく少し前に開けられた穴だろうな。壁に残る血痕のような跡は完全に乾いてる」と、呟きながら、俺も穴を覗き込む。 「えぇ、ベルブ様…。この穴の奥に進めば…その悪魔がいるかもしれません」 「あぁ。とりあえずマーレに報告しておけ。穴があったから先に進むと」 「御意、直ちに報告を…」 グラウィタは甲冑の胸元から蝶を象った紫色のブローチを取り出す。 「マーレ殿」と、彼はそれに向かって語りかけた。俺は穴の奥を観察しつつ、その先の気配を探るように感覚を飛ばす…。しかし…悪魔の気配はまだ感じられない…。これはどこまで続いているのだろうか…。 巨大な空間が出来ている…直径が4メートルほどの穴になっているな…。この地下道から、悪魔の作った穴の足元までの高さは1メートル程か。飛び降りて先へ進めそうだ。 そんなことを思案しながら、ふと後ろを振り返る。穴の先への気配を探るための感覚を遮断して、グラウィタを見つめた。 「グラウィタ。どうした?」 グラウィタは警戒するように尻尾を上にピンと向け、その目をギョロリと見開き……どうやら、かなり動揺している様子だ。 「…マーレ殿と通信できません、ベルブ様」 焦燥感の募った瞳が俺に向けられ、グラウィタは僅かに震える声で呟いた。その右手には蝶のブローチを強く握りしめている。 「…そうか」 俺の口調は冷静だった。しかし内心では、グラウィタの言葉に衝撃を受けいる。小さく息を飲んだ…。 何故だ?マーレの身に何かあったか? ……ライラは無事なのか? 「グラウィタ…。マーレの気配を探せ、場所は分かるだろ。俺はライラを…」 すぐさまライラの気配を探る。離れていてもライラの気配ならすぐに…… しかし… 「…クソ。何故だ…」と、舌打ちしながら呟く。 …ライラの気配ごと消えている。マーレもだ。 「ベルブ様…。来た道を…お戻りになりますか…?私にこの穴を進むという命令を与えていただいても構いません」 「待て…。ライラは心配だが…気配ごと消えているのはおかしい…。グラウィタ、魔力は使えるか…?」 そう尋ねると、グラウィタは右手の手のひらを上に向けて魔力を使おうとしている。俺も同じようにして、魔力を使い簡単な炎を作ろうとした。 「っ……駄目です、魔力が使えない…?」 額に汗を滲ませたグラウィタが、俺を見つめる。 「あぁ。罠にかかってしまったのは俺たちのほうかもしれんな…。どうやら精巧な結界の中に俺たちは入っているらしいぞ…。魔力が使えないとなれば、」 「つまり…気付かないうちに私たちは結界の中に閉じ込められた…?」 「閉じ込められたかどうかまでは、分からんな…。この手の結界は、結界内と外界を遮断させたり、悪魔を中に入れないという効果を持っていたり、様々だ。だが、使とは、初めてだな…。結界にいつ足を踏み入れたかも分からなかった…」 「…もしかして……エクソシストですか?」 「…その可能性はあるが」 「でしたら、ベルブ様…。私たちはあの悪魔の気配を魔力で探ろうとしていましたが…」 「…そうだな。結果の中に足を踏み入れた時から、俺たちのレーダーは使えなくなっていたということだ」 「それは…っ」 その時…。穴の奥から、ゴゴゴゴ…と何かが蠢くような音が響いてくる。 「…魔力に頼り過ぎていた。奴は俺たちにもうすぐそこまで接近してるらしいぞ…。攻撃に備えろ、グラウィタ」 冷静な声色で告げると、グラウィタはすぐに腰に携えていた剣を構える。俺も背中に掛けていた黒い剣を構えた。念の為に持ってきておいて良かった、と安堵している。魔力が使えないとなれば…丸腰で戦うことになっていただろう。 しかし俺たちの居る足元はグラグラと揺れ始め、とても大きな存在が、左のあの穴から蠢いている気配を感じた。強烈な臭いも途端に強くなる。 ほう…動きが早そうだ…。 「良いか、グラウィタ…。結界の中での戦闘は不利だな。奴を引き付けながら、来た道を戻る…。結界を抜けることができれば、魔力も復活するはず」 「御意…!」 「さぁ、走るぞ…。行け!」

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