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第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』ー5
「そう……」
と言ったきり陸郎は黙りこくった。手元のコーヒーにじっと視線を落としているが、飲むわけでもない。
(はぁ〜失敗だったかなー)
心中で溜息をつきながらジェラートを静かに突 く。
「……でもね」
陸郎のほうを見れずにあらかたジェラートをココアの中に沈め音を立てずに飲み始めた頃、隣でコーヒーカップを持ち上げる微かな音がした。こくっと一口飲んでる気配。そしてカチャッと小さい音を立てカップはまたソーサーに戻る。
「……本当に俺たちはつき合ってなんかいないんだ。優の言葉を借りれば親友って奴だ」
「え……」
僕はストローから口を離して陸郎の顔を見た。その言葉とその横顔には嘘がないように感じた。
僕は軽く混乱をする。
(全部僕の勘違いだったのか……?)
だけどあの光景を見て感じたことは間違いじゃないように思うんだ。
「でも! 僕見たんだ!」
ガタンッとイスを跳ね上げる勢いで立ち上がる。
「温くん」
シッと陸郎が口元に人差し指を立てたのを見て、はっとして周りを見回した。どうやら注目を集めてしまっているらしい。ちらちらと視線を寄越す人もいればひそひそ話している人もいる。
「あ、ごめんなさい」
しゅんとなって座った。
「あの、でも、僕見たんです」
小声で言い直す。
「お兄ちゃんたちが高校生の時にリビングのソファーで寝ているのを」
その事実だけではただ寝ているだけだろう? と反論されるかも知れない。
「あの時……松村さんは横になっているお兄ちゃんの胸に顔を伏せて、そして手を握っていました。指を絡めて……恋人繋ぎってヤツですよね? あんなこと普通親友だってやらないって、中学生の僕でも思いましたよ。それまでは親友ってあんな距離近いもんなの? 毎日家まで送ってくるものなの? しかも松村さんが怪我で陸上辞めたあとも。ずっと疑問を持ってた、だけどあれを見て確信したんだ」
これでも違うって言い張るのかと、僕は一気に言い募った。
「そうか……見られてたのか……」
すべて聞いた後陸郎の口から独り言のように漏れた。
どうだ、言い逃れはできまい。僕はやってやったという気持ちになったけれど。
やっぱりそれは間違いだったのだ。
「だけど本当に違う……俺は……そういう意味で優のことを好きだったけど」
苦しげに軽く顔を歪め、そして自嘲気味に微笑む。
これが真実だと知った。
僕はずっと勘違いをしていたのだとショックを受ける。
(だったら何故……)
これ以上訊いてもいいのだろうかと思いながらも遠慮がちに口を開く。
「あの……松村さんが高校卒業後にまったくうちに来なくなったのは何故なんですか……? 同じ大学に通っているのに」
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