12 / 25
第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』ー7
「春休みに入って向こうから連絡くることもなく、もちろん俺からすることもできずで。あの時はこれからも親友だって言ってくれたけどやっぱり気持ち悪いと思ったのかも知れない。このまま離れて行くんだろうって思ってたんだけどーー桜葉大の入学式に出てた。式中にLINEがきててカフェで待ってるって」
それを聞いて僕はぞっとした。
優雅は他にもレベルの高い大学を幾つか受けていたが、桜葉大を受けていたことを僕が知ったのは入学式の前日だった。
本当は最初から陸郎が行く桜葉大に決めていて内緒にしていたのではと勘ぐりたくなる。
「ここを受けていたのは知ってたんだけど俺は他のもっといい大学に行くかと思ったんだよ。きっともう会うこともないだろうと思って告白したのに」
(まさか、松村さんの気持ち知ってて? 告白してくることもわかってて? とか。いや〜まさかだよね〜)
ふと思いついた自分の考えに背筋が凍りそうになった。
「それで、兄とはまた元通りに? 親友としてつき合ってるんですか?」
怖い考えをどうにか押しこめてそんなことを訊ねたみた。
「どうかな……大学内で一緒に食事したりとかはたまにするけど。学部も違うし、前みたいに四六時中一緒ってわけにもいかないから。また遊びに来いよと何度か家に誘われたけど、入学したばかりで忙しいからって言って断ってた。そのうち彼奴がサークルに入ったり彼女ができたりで、余り俺には構わなくなったな。俺のほうにもまだ気不味い気持ちがあったし、親友とは呼べないかな。いいとこイチ友人てとこだろ」
それでも陸郎は頼まれれば僕の案内もするのだからまだまだ優雅に弱いのだろう。
(それにしても……優雅の考えてることはやっぱりわからないな。松村さんの気持ちに応えられないのに、松村さんのことは繋ぎ止めておきたいって感じがする。彼女も本当は単なる牽制か、もしくは嫉妬を煽るため……とか?)
また怖いほうに考えがいってしまった。BL漫画に影響されすぎだろうか。
(ところで……さっきはつき合ってみない? と言ってしまったけど。松村さんには彼女……彼氏? はいないのかな?)
陸郎の話を聞いたきり何も言わず長考していた。
「温くん?」
ずっと陸郎の顔を見つめながら考えていたので彼のほうは少し気不味げだ。
「お兄ちゃんには一年の時からつき合っている彼女がいますよね。さっき一緒だった女の人。松村さんのほうはどうなんですか? 彼氏……いるんですか?」
陸郎が優雅のことがまだ好きなのは、僕を見つめる瞳や言葉の端々に感じるものがある。だけど、つき合っている人がいるかいないかはまた別問題のような気がする。例えば、ずっと心の中にいる人じゃなくてそれを忘れたくて他の人を好きになる、とか。
ともだちにシェアしよう!

