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第二章『お兄ちゃんの代わりにしていいよ』ー9

 そんな自分にちょっと呆れたけど、でもこれは陸郎とつき合えるチャンスじゃないかと、どうにか口説き落としたいところだ。 「僕、顔だけならお兄ちゃんに似てるでしょ。背もお兄ちゃんくらいに伸びたし。まぁ頭と運動神経は全然劣るけど背格好一緒だもん。お兄ちゃんの代わりにしていいから、試してみません?」  軽く。軽く。  『お兄ちゃん』と口にする度に引き攣りそうになるのをバレないように。軽い気持ちで提案していると思えるような口調で言う。 「温くん、それおかしくない? 優以外の男が大丈夫なのか、優に似たきみと試すって。それで大丈夫ってことになっても、結局優が好きだってことになるんじゃないの?」 「ぅ゙……」と空気で喉を詰まらせたような音を発する。 (松村さん……っそれは確かに正論ですっ) 「それに……きみはいいの? そういうつき合いで。もっと自分を大切にしなきゃだめだよ」  優しい声で優しく目尻を下げて言う。僕の知っている陸郎はもっと表情のない顔でこんなふうに話をする人じゃなかった。 (松村さんは大人になったのかな)  それとも優雅のことが陸郎を変えたのだろうか。優しいのに何処か人生諦めてるみたいな。 (松村さん! ダメだよ! 優雅にフラレたくらいで!)  僕が陸郎の気持ちを変えてあげたかった。 「じゃあ、『ごっこ』くらいに考えたらどうかな? 上手くいかなかったり、どちらかに本当に好きな人ができたらやめる。松村さんが卒業するまでの一年間。僕と恋人ごっこしようよ」  自分が陸郎のことを好きなことは言わない。もし言っちゃったらきっと重く考えて乗ってくれないだろうから。 「え、でも」  陸郎はまだ納得いかないらしい。それも仕方ない。 「ね、松村さんっ! 余り重く考えないでいいんですよ。大学内で一緒にご飯食べたりとか、そんな感じでいいんで」  ゴリ押ししてみる。 「じゃあ……」  どうやら陸郎は押しに弱いらしい。 「友だちでもいいかな?」 「えー」 (友だち……友だちか)  かなりがっくりきたけど、このまま関わりがなくなるよりはマシかな。 「いいですよ、でも僕のほうは恋人のつもりでいますね」  あくまで軽い態度を崩さず強気に笑ってみせた。

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