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第三章 『恋人としたいこと◯か条』ー3

「きっといいお兄さんなんでしょうね」  と言うとちょっと照れたような顔をする。 「さあ、どうだろうな。顔合わせる度につんつんしてるみたいだけど」  そう言いながらもすごく優しそうな顔をするのはやっぱりいい兄なんだろうと思うし、たぶん本当はつんつんしている妹も陸郎のことが好きなんだろうとほっこりする。僕だったらこんなイケメンで無口だけど優しく見守ってくれそうな兄は自慢だ。 「ふ〜ん」  僕の声も自然と嬉しさが滲む。 (さて、他に聞くことは)  スマホのメモ機能のページを開く。 「えーと、身長と体重は?」 「今日はずいぶんと質問攻めだね」  不思議そうに見つめてくる。 「だって『恋人』のことはいろいろ知りたいですよね。松村さんは『友だち』からだっていうけど僕は『恋人』のつもりでいますから」  そう言ってからはっとして。 「あ、『ごっこ』ですけどね」  あくまで『ごっこ』のスタンスを崩さない。陸郎の顔が複雑そうに変わった。  それでも質問には答えてくれた。 「身長百八十二、体重は六十九。陸上やってた頃よりちょっと落ちたかな」 「そういえば、そうですね。前よりちょっとひょろっとして見えるかも」 「よく覚えてるね」 「え、なんとなくなんとなくね」  慌てて手を振って軽く否定する。 (いけないいけない、松村さんのこと昔からめっちゃ気にしているように思われちゃう) 「松村さんもう内定取ったんですよね、すごいなぁ」  唐突に話題を変えたけど、いろいろ知りたいって言ったから不自然じゃないはず。 「別にすごくないだろ? これくらいみんなやってるーー優だって大手の企業コンサルタント会社の内定取ってるじゃないか」 「え、そうなの?」  全然知らなかったけど、それよりもちょっとした話題で兄の名が出てくるのにもやる。 「さすがに優秀だよな」 「松村さんだって優秀じゃないですか、あの中高一貫校に通ってたんだから」  自分の代でも何人か受けていたけど一人二人しか合格していなかった。 「ああいうとこって頭の問題だけじゃないよ、実は。学校が欲しいと思う『何か』がなきゃ。俺の場合たぶん陸上だろ。あそこスポーツの盛んなところだったし。優はどっちもいけてたよ」 (もうっなんで優雅のことばっか褒めるのさ)   僕はイラッとしてずずーっと一気にジュースを飲みきった。 「でもお兄ちゃん、大学は両親が望んでいるようなとこじゃなかったし、大学生になったら別人みたいに遊び歩いてるから両親ももう諦めてますよ」  つい嫌味を言ってしまったけど。そんな大学に自分ーーはともかく、陸郎も通っているというのにずいぶん失礼なことを言ってしまったと少し気不味い気持ちになった。 「あ、ごめんなさい」 「いや……」  その短い返しにはどんな心情が隠れているのか。やっぱり優雅のことを考えているのだろうか。

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