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第六章『涙のバースデイ』ー3

「友だち?」  陸郎は僕の前に座るとちらっと洸の去って行った方向に目を向ける。もう洸の姿は人混みに紛れて見えなくなっていた。 「あ、バイト先の先輩です」 「仲いいのか?」 「ええ、まあ。ちゃらそうに見えますがけっこう丁寧に教えてくれるし、同じ大学の二年生だからってことでバイト先では一番話すようになって……」  世間話のようなノリで訊いてきたんだと思った。僕もそんな感じで軽く答えながら、陸郎を見るとどことなく浮かない顔をしていた。 「どうしました?」 「いや、温くんが友だちといるのを見たことがなかったなって」 「いやだな、僕にだって友だちいますよ」  陸郎が苦笑いをする。 「そうだよな」 (ほんとにどうしたんだろう? もしかしてちょっとは気にしてくれてる?)  ちょっと嬉しくなったけど。そんなわけないかと、すぐに打ち消した。 「陸郎さんお昼いいんですか?」  彼が何も買って来ないのが気になった。 「ああ、そうだな」  陸郎は一旦席を離れてコーヒーを持って戻って来た。 「あれ、コーヒーだけでいいんですか? お昼まだなんですよね」 「ああ……なんか疲れちゃってもういいかな」  その言葉通り陸郎は本当に疲れた顔をしている。  僕は一口サンドウィッチを齧りそれが口からなかなると、 「どうかしたんですか? 兄と……何かありました?」  そう訊ねた。 「俺、優と一緒だったって言ったっけ?」  コーヒーを啜りながらやっぱり疲れたような声を出す。 「いえ……でも、お昼に来ないのってだいたい……というか、ほぼ百パーセント兄じゃないですか」  自分で言っておいてその事実に切ない気持ちになる。でも悲しい顔は絶対しない。  陸郎のほうはやや複雑そうな顔をしていた。何を考えているのか、しばらく僕の顔を見ていた。 「今日はゼミ室の外で待ってた」 (優雅のヤツ〜〜)  怒りを感じたがもちろん何でもありませんみたいな顔で、サンドウィッチを口の中に放りこむ。 「昼一緒に食べようって言うから先に約束があるからって断った。でも彼奴、せっかく来たのにって言って引かなくて、しばらく言い合いになって」 「あ、そういえば今日は兄、授業がない日でしたね」 「ああ」と苦笑。 「わざわざ来たのにって」 (なんて、押しつけがましい!) 「でも昨日も約束破ったろ? だから」  陸郎は本当に真面目だ。僕が勝手に作った約束なのに。本来なら破っても文句は言えない。でも一度承知したことだから罪悪が湧いてしまうのだろう。 「そんなことしてたら今度は矢尾さんが来て」 「矢尾さん? 兄の彼女? 元カノ?」  実際には別れたかどうかの確認はしてなくて、状況からして僕の中では別れたことになっていた。  

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