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第七章『やっぱり『触れ合いたい』の『好き』でした』ー8

 まずは心を落ち着かせよう。  僕をあわあわさせた張本人はしれっとして備えつけポットに水を入れに行った。確か備品にコーヒーのセットがあったはず。さてはコーヒーを飲むんだなと思った。  戻ってきてセットすると、またベッドの端に腰かけて水を飲み始めた。 「良かったんですか、お酒とか買ってこなかったけど。せっかくお泊りだから酔っぱらっちゃってもいいんですよ〜」  軽い気持ちでそう言ったら返り討ちにあった。 「毎晩晩酌してるってわけでもないし、一人で飲んだってつまらないだろ。温くんが飲めるようになったら一緒に飲めばいいさ」 「え……」  とくんと胸が鳴る。 (……っと。今のいったいどういう意味でしょうか)  余り深く考えてはいけない。 「それってー飲めるようになったら、また一緒に来てくれるってことですかー?」  冗談っぽい口調で言う。 「だって俺たち……恋人同士なんだろ?」  僕らはそれぞれのベッドに座って向かい合っていた。陸郎は少し腰を浮かせて手を伸ばすと僕の顎をくいっと上げた。 「!!」  これは完全に負けだ。心臓が爆発しそうになった。  でもそれだけですぐに陸郎は手を引っこめて再びベッドに腰を下ろす。 (か……揶揄われたのか……な……)  いつもの陸郎らしくないのはやっぱり、夢の世界の魔法にまだかかったままだからだろうか。 「ご……『ごっこ』ですけどね〜」  僕はべっと舌を出す。  動揺を悟られてはいけない。こんなのなんでもない、慣れてるというを感を出そうと軽い口調で言った。  陸郎は微かに笑んでいる。その顔からは何を思っているのかわからなかった。 「お湯沸いたみたいだな」  ちょうどその時湯の沸く音がして彼は立ち上がった。  彼の眼差しがないところでほ……っと自然と息が漏れ、自分が半端なく緊張していたのを実感した。 * *  たぶんさっきのは本当に揶揄われたのだろう。彼は僕のことを『恋人』だとは思っていないし、もちろんそうなりたいとも思っていないはず。  切ない気持ちは置いておいて、僕は陸郎に仕返ししてやろうと思った。  明日のチェックアウトは十一時。  パークに行くのは今日だけで明日は帰るだけなので、朝はゆっくりめで大丈夫だ。明日の支度は明日すれば良いだろうとのんびり過ごす。  しばらく備えつけの大画面テレビを見ながらコンビニで買ってきたスナック菓子などを摘んだり、ベッドでごろごろしたりしていた。 「そろそろ寝ようか」  陸郎が少し眠そうに言った。  時刻は二十三時で普段ならまだ起きている。この時間にラインすることもあり、陸郎からも返信がくるので彼もまた普段は起きている時間なのだろう。  

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