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第七章『やっぱり『触れ合いたい』の『好き』でした』ー9

 僕が歯磨きを終え寝る支度を整えた頃、陸郎はもう既にベッドに潜りこんでいた。仰向けになって目を閉じている。でもまだ眠ってはいないだろう。 「灯り消しますね」 「……ああ……」  酷く眠そうな声で答える。  二つのベッドの間にある壁に備えつけてある灯りをごく淡く点け、他はすべて消灯した。  僕は上から陸郎を見下ろした。 (さぁ! 驚けっ)  悪戯を仕掛ける子どもみたいなわくわくした気持ちになって、僕は陸郎の隣に潜りこんだ。 「おじゃましまーす」  陸郎の身体がぴくっと振動し、天井を向いていた顔がぱっとこちらを向いた。もちろん目はぱっちりと開いている。 「温くん……」  何を言っていいのかわからないようだ。それほど驚いているのだろう。 「一緒に寝ましょう! だって僕たち恋人同士ですもんね〜」  彼の背に手を回し、ぎゅっと抱きついた。 (陸郎さん、どうする〜?)  どうせ追いだされるだろうと踏んでいた。そう思っているからこその行動だ。 「きみ、さっき『ごっこですけどね』って言ったよね?」 「言いましたね〜」  楽しくなってきて、僕はふふふっと笑いを漏らした。 「――後悔するなよ」  不穏な呟きが聞こえたかと思うと、まだ仰向けたままだった身体をごろりと僕に向かって横向きにした。 「えっ」  陸郎の呟きも行動もすぐに理解できず、気づいた時にはぎゅっと抱きこまれていた。顔が彼の胸に密着する。 「いいよ、このまま寝ようか。俺たち恋人同士だもな」 「ええーっ、陸郎さんっそんな、冗談ですよねっ」  取り繕うこともできず、めちゃめちゃ動揺をみせてしまう。 「何慌ててるの? 誰かと寝るのは初めて?」  腕が少し緩くなったのでちらっと上を見ると探るような陸郎の眼差しにぶつかった。 (試してるの?)  そうだ、僕は経験豊富という設定だった。こんなことで動じてはいけない。 「そんなことないですよ。じゃあこのまま寝ましょうか」 「ああ」  その相槌には笑いが混じっているように感じた。 「じゃあ、おやすみ」  そう言って僕の頭上にキスを落とした。 「〜〜〜〜!!」  仕返ししてやろうと思ったことを僕は激しく後悔した。まさか陸郎がこんなことをしてくるとは。  僕の耳は陸郎の心臓に近く、聞こえてくる彼の心音は少し早いようだ。彼も少しは何かしらを感じてくれているのだろうか。しかしそれは数分後にはゆっくりめになり、やがて頭上から微かな寝息が聞こえてきた。 (マジかっ。寝ちゃったよっ)  陸郎と違って僕の心臓はまだ煩いままだ。  裸の腕に抱きこまれ、密着した鼻先は彼の『香り』を感じている。    

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