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第七章『やっぱり『触れ合いたい』の『好き』でした』ー10
それはけして嫌な香りではなく、彼自身の体臭。石鹸の匂いと少し汗の匂い。それから煙草の匂い。彼は一度部屋を出て一階の喫煙所に行っていた。何処に行くとは言っていなかったが、帰って来た時に微かに匂っていた。
それらすべてが大人の香りのような気がしてどきどきする。
(こんなの眠れるわけない)
眠っているのに陸郎は僕を離さない。
(こんな、本当の恋人同士みたいな)
頭は沸騰しそうだし、身体も熱くなってくる。
(……っ)
僕の身体は少し反応していた。
慌てて陸郎の様子を窺う。寝息が聞こえたままなのにほっとした。
(なんでっこんな……っ)
と思っても、そんなのはわかりきっている。
僕が陸郎を好きだから。好きな相手にこんなふうに抱きしめられていたら誰だって反応する。
しかし今ここで自分で慰めるわけにはいかない。動けば陸郎が起きてしまう。そうしたらバレる可能性が高い。
僕を抱きしめてきた陸郎の身体は、すごく冷静でなんの反応もなかった。それはきっと陸郎が僕のことをそんなふうに見ていないからだ。僕の身体だけが反応しているのを知られたら、穴があったら入りたいどころの騒ぎではないだろう。
とにかく気を鎮めてと目を瞑り、無になろうとしたけれど。
浮かんでくるのは、僕に触れてくる陸郎の大きな手。指先で唇に触れ、首筋を下りてくる。僕は何も着ていなくて、その裸の胸を熱い掌が撫でる。そして、腹を下りて……。
僕は今まで誰ともつき合ったことがない。セックスどころかキスすらしたことがない。だからすべて想像で、元ネタはBL漫画だ。
だけどこれまでは自分のこととして想像したこともなかったんだ。
『恋人ごっこ』をしようと言いだした頃、陸郎に対しての『好き』が憧れに近いものなのか、それともセックスも込みでの『好き』なのか考えた。その頃は前者のほうだった。
でも、今は。
陸郎に触れて欲しいの『好き』なのだと、はっきり自覚してしまった。
(陸郎さん……好き……でも……陸郎さんは、今でも優雅のことが好きなの……?)
その切なさは熱くなった身体を鎮めるには充分だった。
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