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第九章『『恋人ごっこ』やめました!』ー3
洸はコーヒーを飲みきった後の紙コップをくしゃっと潰した。その潰し方にも怒りが現れている。
(いやいや、そんな怒らなくても)
怒っていてもゴミはちゃんと裏口近くにあるゴミ箱に捨てに行った。彼は再び僕の横に並ぶ。
「ソイツ……おまえの兄ちゃんのことが好きなんだろ、おまえのこと代わりとでも思っていたのかな」
ドキッ。心臓が跳ね上がる。陸郎に「代わりにしていい」と言ったことを知らないはずの洸の口から、そんな言葉が出てくるなんて思いも寄らなかった。
(やっぱ、三瀬さん、鋭いなぁ)
洸は憤ったまま続ける。
「だからってそんな……小さい子じゃあるまいし、男同士だって手を繋ぐことには意味があるってわからなくないだろ」
それはどうだろうか。
同性を好きにならない男だったら、もしかしたら『そんな意味』もなく手を繋ぐ、思わせぶりな人間もいるかもしれない。陸郎は、僕が本当は自分のことを好きだとは知らない。やっぱりあの時手を差しだしたのには、迷子になっちゃうぞ、以外の意味はなかったんだ。
(それを僕が勝手に期待して……告白なんかしちゃって……)
洸の言葉を聞きながら、さらにあれこれ自分で考えては落ちこんでいく。
「……やっぱさぁ……」
しばらく話が途切れていた後だった。ずっと地面を見ていた僕は「ん?」と顔を上げて洸の横顔に目を向けた。
突如として洸が身体を翻す。
ドンッと顔の両脇の壁に手をつき、僕を囲んだ。
壁ドンってやつだ。
(えっなにっ?? これは噂の壁ドンではっ?!)
目の前にイケメンの顔! という迫力に押されてあわあわしつつも、これが陸郎さんだったらなぁ、などと失礼なことを考えていると、
「オレにしなよ」
そんな真剣な声が聞こえた。
「えっ」
「オレとつき合おうよ」
顔ももちろん真剣だ。
「温くん、好みの顔だし素直で明るいところも好きだったけど、そんなふうにいじらしいところ知っちゃったら余計好きになっちゃったよ。温くんのこと傷つけてばかりのアイツなんかよりオレのほうがずっと大事にしてあげられる」
さっきまで陸郎のことを『あの人』と言っていたのに、すっかり『ソイツ』だの『アイツ』だのに変わっている。だいぶ敵視していることが感じられた。
(ああ、そうだった………)
洸の態度にあまり変化がなかったのでうっかり忘れていた。
(僕三瀬さんに告白されてたんだっけ。どうりで自分のことでもないのに、陸郎さんに対してめちゃめちゃ怒りを感じているはずだよ)
告白の後も態度が変わらず、陸郎のことも普通に聞いてくるので、それほど真剣な告白ではなかったのかもしれないと思っていた。だからうっかり記憶の外に放り投げていた。
でも今は、かなり真剣なのだということが伝わってくる。
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