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第九章『『恋人ごっこ』やめました!』ー5

 実はバイト、大学以外でも二回出かけたことがある。 「買い物つき合って」「観たい映画あるんだけど」  洸から誘われた。  洸の想いに応えられないのに出かけるのはどうかと思う。本当は断ったほうがいいに決まっている。でも彼に誘われるとなぜだか断れず、そして一緒にいると楽しいのだ。  彼は確かにガンガンぐいぐいはくるものの、「好きだ」とか「つき合ってくれ」などとはあの時以来口にしない。友だち感覚でいられるから気が楽なのだが、本当はそう思っちゃういけないんだろう。 「あ……あの人」  いつものように学食で洸と昼食を食べていた。  窓側の席で、窓に向かって座っている洸がぼそっと呟き、しまったという顔をする。  僕は不思議に思い、後ろを振り返った。 「……陸郎さん……」  そして横を歩いているのは優雅だった。二人は学食の前の道を通り過ぎて行き、こちらには目も向けなかった。  そのほうが良かった。僕ばっかり見てると思われるのも嫌だし、洸と一緒にいるのも見られたくなかった。 (まぁ……見られたところで陸郎さんはなんとも思わないんだろうけど)  沈んだ気持ちでアイスココアを啜る。陸郎の好きなコーヒーを好きになろうとするのも一旦やめていた。 「……隣にいたのって、もしかして、温くんの兄貴?」  洸はそう言ってからまた、しまった、みたいな顔をする。ついぽろっと口にしてしまったけど、僕が気分を害するとでも思ったのかもしれない。 「うん。そう。よくわかりましたね?」  僕は特に気にしていないふうに明るく言った。 「あ、うん。めっちゃ似てるから……ほんと、ひでぇな」  最後の言葉は小さい呟きだったけど僕の耳にも届いた。 (陸郎さんが僕を優雅の代わりにしていた……って思っちゃったかな) 『代わりにしていいよ』と言ったのは僕だ。最初の頃はそんな目で見られていたような気がする。でも実際に陸郎が優雅の代わりとして僕に接していたのか、本当のところはわからない。  なんとなく気まずい雰囲気になると、洸は残っていたどんぶり飯をガツガツと掻きこんだ。すべてなくなるとコップに入ったサービス用の水で流しこむ。  はぁと一息呼吸して、 「オレ、学祭でバスケの試合するから見に来てよ」  ついさっきまでの妙な空気がまるでなかったかのように、にっと笑う。  僕もつられて笑った。 「初耳。三瀬さん、バスケなんかやってたんですか? どことやるの?」 「バスケ部対バスケサークル」  桜葉大にはバスケ部とバスケサークルの両方がある。 「で、三瀬さんはどっちなんです?」 「サークルのほう」 「あ、チャラいほうですね」   大学のバスケットボール部はガチ勢で割と強いと有名だ。サークルや部活に興味のない僕でも知っている。もし洸が『部』のほうだったらバイトなんかやっていられないかもしれない。  

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