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第九章『『恋人ごっこ』やめました!』ー11

「温くんに話があるんだ」  その声はもう間近まで迫っていた。  そこまで近ければ顔も見えた。相変わらずの無表情だ。 「なんの話だよ」 「きみには関係ない」  静かだけどどこか圧のある声だ。 「関係あるよ、オレたちこれから温くんの誕生日を祝うんだから。邪魔されたくない」  やや声を荒げる。大きく腕を広げて、僕をそこから出させず、また陸郎にも踏み込まれないようにしている。いつもは軽いノリの洸も今は余裕がない様子だ。僕以上にピリピリとした緊張感が伝わってくる。  直球の威嚇に一瞬目を逸らしたが、再び僕らを真正面から見た。 「俺も温くんの誕生日を祝いに来た」  相変わらずの無表情。 「陸郎さん……」  すぐに気持ちが追いつかない。気にしてここまで来てくれたのは嬉しい。でも僕を振ったのに……とも思う。喜んでいいのか怒っていいのか、自分自身にも分からなかった。  しかし、洸ははっきりと怒りを現した。 「今さら、なに言ってんだ。あんたにコイツの誕生日祝う資格あんのかよ」 「…………」  陸郎は無言で僕を見た。なんでこいつが知ってるんだ、と責められたような気がした。 「三瀬さん……あの……声が大きいです」  いくら人通りのあまりないとはいえ、絶対通らないとはいえない。それにスタッフが裏口から急に外に出てくるかもしれない。揉めているところを見られるのは非常に気まずい。 「あの……三瀬さん」  通せんぼしている洸の腕に触れた。 「僕、陸郎さんと話がしたいです」 「温くん! なんで!」  反論しようとして、僕の顔を見た。強い意志が伝わったのだろう。その後は続けず、腕を下ろした。 「三瀬さん、ごめんなさい」  洸の横をすり抜けて陸郎に歩み寄る。 「陸郎さん」 「温くん……」  お互い顔を見合わせ名前を呼ぶだけ。  もうずっとこんなふうに間近で彼の顔を見てなかった。それだけで胸がいっぱいになった。  そんな僕らの横を洸が足早に通り過ぎて行く。二、三歩先で立ち止まって振り返る。 「温くん! 誕生日おめでとう!」  そう言って手を振った彼の顔は、陸郎より先に言ってやった、という達成感のようなものがあった。  彼が走り去って行くのは僕らは黙って見送った。 * *  話があると言っていたのに。 「とりあえず帰ろうか」  その一言を言ったきりだった。電車に乗って一駅。地元の駅に着く。いつも一緒に帰る時の道筋を通り、とうとう陸郎の家の方向との別れ道に差しかかる。  そこまでずっと無言だった。 『誕生日を祝いに来た』という言葉に、少しは僕のことを気にしていてくれていたんだと、嬉しく思っていたのに。  でも、そんな気持ちもだんだんと萎んでいく。 「あの……じゃあ……さようなら……?」  そこで立ち止まったままの彼に、どうしていいかわからず、僕は別れの挨拶を言った。

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