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第九章『『恋人ごっこ』やめました!』ー12

 僕がそう言っても無言のまま。 (結局……なんだったんだろう。あんなところまでわざわざ来たのに)  小さく溜息をついて背を向けた。  ふと腕時計を見ると十時を回っていた。心と一緒で今夜は少し寒いような気がする。 「待って」  背後から引き留める声が聞こえたかと思うと、背中に温もりを感じた。僕の腹の辺りに彼の両手がある。 「りくろー」  名前を呼ぼうとして陸郎の声が被さる。 「好きだ」  耳元で囁かれた言葉とは裏腹に、その声は少し苦しげ。 「え?」  その言葉自体はわかる。でもその意味を噛み砕いて、まだ心に到達していない。  その間に陸郎は離れ、今度は僕の手首を掴んだ。そして、歩いて来た道をもう一度戻っていく。それほど強い力ではないのに、振り払うことができずに彼に従った。  陸郎が連れてきたのは住宅街にある小さな公園だ。この辺りにはこういった小さな公園がいくつかある。  小さい頃にここで遊んだこともある。  そういえば、リビングで陸郎と優雅が眠っていたあの日、時間を潰したのもこの公園だったな、と懐かしく思う。  あの日僕は自分の性癖を確信し、陸郎への恋心も自覚したんだ。 (ここに座ればいいのかな)  この公園にはベンチが二つある。  陸郎が連れて来たのは灯りのあまり届かないほうのベンチだった。  僕は陸郎に手首を掴まれたままベンチに座った。そうすると、陸郎もほっとしたように手首を離し隣に座る。腕が触れ合うくらいに近い。こうやって隣に座る時、陸郎から近づいてくるのは初めてではないだろうか。  僕はさっきからずっと陸郎の言った言葉の意味を考えている。『好き』という言葉の一般的な意味はもちろんわかるけど。 (陸郎さんはどういう気持ちであの言葉を……)  陸郎がまた黙ったままなのでこちらから話しかけるしかなかった。 「あの……さっきの……『好き』っていったい……どういう……」  膝の上に行儀よく乗っている自分の両手の甲を見つめながら、しどろもどろで言葉を紡ぐ。  僕の両手の上に陸郎が手を重ねた。そのままぎゅっと握る。 「俺、きみが……温くんが好きだ」  「……っ」  その言葉にぱっと顔を上げようとしたら、陸郎の顔がすぐ間近にあって、唇を掠めるような温もりを感じた。  それはすぐに離れていく。 「こういう意味で」 (え……っ。なに。今、ひょっとしてキスされた?)  ここはドキドキすべきなのだろう。しかしドキドキよりも衝撃が勝った。  そして、その後僕が取った行動は、周りを見渡すことだった。  この時間にこの公園にはあまり人がいることはないが、たまに近所の高校生くらいの子たちがいることもある。  幸い今は誰もいなかった。  僕は落ち着いて考えようとした。しかし考えれば考えるほど落ち着かなくなる。 「えっあのっりくろーさん? この間はごめんっていいましたねっ? あのごめんってどういう。ってか、僕のこと好きって」  

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