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第十章『彼氏になったらこんなに甘々になるなんて聞いてません!』ー5

 初めて入った陸郎の部屋はブラウンとアイボリーの柔らかな世界だった。  入った途端、煙草の匂いと陸郎自身の匂いがして、少しどきどきした。  無駄な物のないシンプルさが彼らしい。  ベッド。無地のブラウンのラグに、ローテーブル。スチールのシンプルな机の上には大学で使う専門書が二、三冊積まれている。  クローゼットに、ぎっしり本の詰まった本棚。専門書、それと小説。推理小説が多い。 (本がたくさん……推理小説好きなのかな? なんか意外)  また一つ彼のことを知ったような気がした。 (あ……一番下にあるのってもしかして)  それに触れようとしたら、 「なんか面白いものある?」  耳元で声がした。後ろから軽く抱きしめられる。  陸郎の行動と勝手に触れようとしたのを見られたかなという気まずさで、鼓動が早くなる。 「あ、本がたくさんあるなぁって」 「そう?」  スッと陸郎が離れた。それでもどきどきが収まらず、さっと本棚の上から下へ視線を走らせた。 「これ」  とさっき触ろうとした少しゴツくて大判の背表紙を指差す。 「アルバム?」 「そうだよ、見たい?」  ちょっと意地悪そうに片眉を上げる。  いろいろごまかそうとしてそう口にしたけど、本音も見たいと思っている。 「見たい」  上目遣いに甘えるように答えた。 「いいよ」  彼はそのゴツいアルバムとその隣の箱型のものを手に取って、ローテーブルまで運んでくれた。  ローテーブルにはコーヒーとココアと、僕が持ってきたケーキが載っている。あとから陸郎が現れたのはこれを用意してくれたからだ。  僕らは隣り合って座った。  なぜ向かい合ってではないのか。  それはケーキと飲み物のセットが向かいではなく、隣り合って座るような位置に置かれていたからだ。 (陸郎さんたらっ)  彼の意図は明らかで、思わずきゅんとなってしまう。   でもなんでもないふうを装う。 「ココアありがとう。コーヒーでも良かったんだよ?」  わざわざ別な飲み物を作ってくれたことに少し申し訳なく思いながらも、僕の好きなものを選んでくれたことを嬉しくも思う。 「別に無理しなくてもいいよ。きみはそのままで」  確かに。陸郎の好きなものを好きになりたくて、無理してコーヒーに慣れようとしていた。多少は慣れたつもりでいたけど。 (そっかー。もうそういうのはいいんだ。自然でいいんだ)  そんなところにも本当の恋人になったことを実感する。そして陸郎の優しさも感じられた。 「アルバム見てもいい?」  ケーキを食べ終えると陸郎にそう許可を取った。 「どうぞ」  

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