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第十章『彼氏になったらこんなに甘々になるなんて聞いてません!』ー6

「赤ちゃんの時だーかぁわいいっ」  ゴツいアルバムは赤ちゃんの頃の写真から始まっている。  さすがに可愛い。  が、幼稚園時代になるとどこかむっとしている表情が多い。小さいのに、しっかり『陸郎』である。 「幼稚園の頃から『陸郎』は『陸郎』だったんだね」  それがおかしくて笑いが零れてしまう。 「どういう意味?」 「無表情!」 「言ったな」 (今、すごくいい雰囲気じゃない?)  『恋人感』を感じる。  実は『彼氏』の家に初お呼ばれはけっこう緊張していた。『恋人ごっこ』ではぐいぐいいっていたのなんてどこへやらだ。  どうせ一年だけのこと。何かあったら即終了の約束もしていた。半分自棄(やけ)みたいなものだった。  緊張しすぎてたいしたことも話せないまま、陸郎につまらない思いをさせるのではないかとさえ思っていた。 (アルバムのおかげだな〜)  ゴツいアルバムは小学校くらいで終わっていた。ケースには入っているのは五冊の薄いアルバム。 「中学生……ほぼ今と一緒だね」 「この頃急に背が伸びたんだよな」  写真を見ながらポツポツ昔話を聞けて、自分の知らない陸郎を知ることができるのが嬉しい。 「あ……」  そこから先に所々優雅と二人で写った写真が。どこかへ出かけた写真とかではなく、競技会の時にでも誰かが撮ったものだろう、バックはどれも競技場で、中学の時の陸上部のユニホームを着ている。 (そうよだね……二人は中学で仲良くなったんだ。そして、中二になる前の春休み、優雅が初めて陸郎を連れてきた……)  二人は同じ時間を過ごしてきた。  改めて二人の刻んできた時間(とき)の長さを感じ、少し沈んだ気持ちになる。陸郎はそれに気づいたのだろう。 「今度、温のアルバムも見てみたい」  短い言葉だけど声が優しい。 「うん。いつか見せるね」 (そうだ! その時には僕が撮った陸郎の写真も見せようかな。きっと驚くだろうなー)  それには家に来てもらうのが一番だけど。 (優雅がねぇ。ぜったい! 確実に! いない日を狙わないと)  それとも。  もう一つの考えが浮かんだ。 (優雅に陸郎のことを話しちゃうか)  陸郎の想いには応えなかったが、優雅は陸郎に対するある種の執着を持っている、とずっと感じていた。ここで陸郎は自分のものだ宣言をするのもありか。 (……いや、今はやめておこう。優雅がどうなるか、想像するだけで怖いっ)  最後のページは高校の入学式で終わっていた。  ケース入りのアルバムはわずか二冊目の数ページまで。  データ保存の普及で最近はアルバムにしない家庭も多い。僕のうちもそんなものだ。 「ありがとうございました。すごく懐かしい写真もありました……僕が陸郎に出会った頃の写真も……」  パタリ……とアルバムを閉じる。  

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