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第十一章『はっぴーめりーくりすます♡』ー3

 車は軽。どちらかといえば可愛い感じだ。陸郎には似合わない気もするけど、運転している彼はかっこいい。 (惚れ直しちゃう〜)  僕の心は完全に乙女だった。  陸郎は行き先を言わない。レストランを予約したのは、確かあの日と同じ十八時だと言っていた。まだまだ時間がある。  車は海岸線を走っている。いったいどこに行くのか。 「あっ」  そういえば、と突然思い浮かんだ。でも言うべきかもじもじしていると。 「どうかした?」 「あの……今日会おうとか兄から誘われなかった?」 「あー」  どこか気まずそうなひと声が上がる。話題にされたくなかったのかもしれない。 「誘われた。昼間暇だから会わないかって。もちろん断ったよ」 「……良かったの?」  ちょろっと横目で陸郎の表情を盗み見る。 「何言ってるんだ。いいに決まってるだろ――恋人優先だ」  片手をハンドルから離して、膝に乗っている僕の手の上に重ねる。 「あの時みたいな思いは絶対させない」  ぎゅっと強く握ってから離れた。 (安全運転だって言っていたのに)  胸がきゅんきゅんと鳴って、頬が熱くなった。  海岸近くの駐車場に車を停めた。  車から降りて辺りを見回すと見覚えのある建物が。 「あ、ここ」  最初の目的地として陸郎が選んだのは、まだ『恋人ごっこ』をしていた時にデートした水族館だった。 「いろいろ、やり直したくて」  僕の顔は見ずにちょっと照れたような表情で言う。 (思ったよりもずっとロマンチストなのかも)  とほっこりとする。  水族館の前には大きなクリスマス・ツリーが飾られている。 「わぁ綺麗ですね」  つい女の子みたいに喜んでしまい、すぐに恥しくなった。陸郎がちょっと眩しげに僕を見ていた。 「どうしました?」 「いや、可愛いなと思って」  ぼそっと答えた。 (う……っ。りくろーさん、僕を殺す気ですかっ)  本物の恋人同士になってから陸郎の意外な面ばかりを見て、ますます好きになってしまう。  水族館の中もクリスマス仕様になっていた。  スペースのある場所にはツリー。壁にはリースやオーナメント。  平日だというのに、ぱっと見ただけでも恋人同士で溢れている。手を繋いだり腕を組んだりしながら水槽を覗き込んでいる。  あの時僕は、どうにか陸郎と手を繋げないかと機会を窺っていたっけと思い返していると、すっと彼の手が僕の手を取った。  驚いて隣に立つ陸郎を見上げる。 「い、いいの?」  こんなところで男同士で手を繋ぐなんて。見る人はなんて思うだろう。  僕の心配を察したのか、 「大丈夫。誰も見てないから」  こそっと耳打ちをしてきた。  僕自身はもちろん手を繋ぎたいと思うけど、陸郎からそうしてくれたのがすごく嬉しい。

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