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第十二章『僕は……ほんとにほんとに幸せでした……っ!(大号泣)』ー6

 フォークを持ったままの手を取り、もう片方の手を後頭部に回して、僕を動けないようにする。 「んっ!」  素早い動作に驚いていると唇を塞がれた。それは最初から激しい。すぐに強く吸われ唇を舐めまわされ、割れ目からすんなり入り込んで口内を蹂躙する。舌を何度も絡め取られる。  息が上手くできなくて、苦しい。  どちらのものとも分からない唾液が滴っているのを感じた。  こんなに激しいのに、陸郎は嘘のように突然去っていく。 「やっぱり……温も甘い」  指先で僕の顎を滴る唾液を拭った。  僕は呼吸と、気持ちを整えるのに必死だ。  こんなに身体を熱くさせられて、当の本人はしれーっとコーヒーを飲んでいた。 「あ、そうだ。温のアルバム見せてよ。この間約束したろ」 「あ、そうだった」  空気が変わったことに少しほっとする。  僕は机の上に重ねて置いてあるアルバムを取りに行った。  家に呼ぶことができたら見せる約束をしていたので、昨日押し入れの中から引っ張りだしておいたのだ。  両親は次男の僕にはあまり興味がなかったのか、陸郎の家にあったアルバムや優雅の最初のアルバムのように立派なものはなかった。四センチ幅くらいの差し込むタイプのアルバムが二冊。二冊目は半分くらいしか入っていない。  その二冊を陸郎の胡坐をかいた膝に、一冊目を上にして載せた。 「こっちが先」  上に載っているアルバムを指でつんと触れた。 「ありがとう」  宝物を扱うような丁寧さでケースから取り出し、表紙をめくる。 (そんなに丁寧に扱わなくても。……僕が優雅ほど親に気にかけられていなかったの、分かっちゃうかな)  そうだからといって別に寂しいわけでもない。ネグレクトされることもなく、ここまで育ててもらったのだから。 「可愛いな……」  愛しさを含んだ声に嬉しくなる。 「陸郎も可愛かったよ?」 「俺よりずっと可愛いよ」  一枚一枚じっくりと見るようにゆっくりとページをめくっていく。 (あ……)   幼い頃は優雅と写っている写真も少なくはない。そこではそれまで以上に目が止まっているように思えた。 「……やっぱ、似てんな」  ちくっとその言葉が胸に刺さった。  ずっと親友で、ずっと好きだった相手。気になっても仕方のないことだ。 「たぶん、この頃のほうが似てますね」 「あ、ごめん」  自分でも知らないうちに声に出してしまっていたのか、そのことに今気づいた様子で気まずげな顔をした。 「気にしてないですよ〜」  なんだろう。  陸郎は僕を好きだと言ってくれた。僕はそれを信じられる。  陸郎は僕を選んでくれた。優雅のことは過去のことだと思う。それに優雅はぜったい陸郎のことをそういう意味で好きにはならない。  僕は今すごく幸せだ。  ずっと好きだった人と、手に入らないと思っていた人と恋人同士になったのだから。  それなのに、時折ちくちくと何かが胸を刺すような感じがするのはなぜなのか。

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