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第十二章『僕は……ほんとにほんとに幸せでした……っ!(大号泣)』ー9

* *  今この家には僕ら以外の誰もいない――はずだった。    陸郎と僕はベッドの上で折り重なっていた。  激しいキスを繰り返し、陸郎の手はもうすでに直に肌をまさぐっていた。これから二度目のセックスをしようという時だ。  この間は初めての経験をする僕の身体を労って、陸郎は遠慮をしていたはず。今日はもっと欲望のままに突っ走ってほしい。もっともっと僕を欲しがってほしい。  泣いても痛がっても「やめないで」というつもりだった。  突然バーンと大きな音を立てて自室のドアが(ひら)いた。 「温! いるのか?!」  その怒声とドアが開くのとはほぼ同時だった。  一瞬にして時が凍りついた。  僕らは動きを止める。それでも何が起きたのかすぐに理解できず、重なり合ったままお互い顔を見合わせる。 「え……優雅?」 「優……」  驚いたのは優雅も同じで、僕らが上半身を起こすと部屋の中ほどで固まっていた。  それはそうだろう。自分の弟と親友がベッドの上にいて、何をしていたのか一目瞭然のところまで進んでいた。 「あ? 優雅?」  他のことが処理できなかったのか、まず気になったのがそこらしい。 (しまった、優雅って言っちゃった)  普段心の中で『優雅』と呼んでいたのが、動揺してそのまま口から出てしまった。  一瞬片眉を吊り上げたが、そのことについては突っ込まなかった。彼の心の中は今はそれどころではないのだ。 (ってか、なんで今ここに? 旅行はどーしたっ?!)  僕が声に出さずに叫んでいると、優雅の顔は赤くなって、蒼くなって、そして、また赤くなった。完全に怒りの色だ。 「陸っなんでっおまえがここにっ。温、友だちが来てるじゃなかったのかっ。っていうか、おまえたちいったいなにやってっっ!!」  一気に言ってから、はあはあと肩で息をする。 「優」  僕よりも先に冷静になった陸郎がベッドから降りた。一、二歩優雅に近づくと、優雅が一、二歩後退る。 「俺たち……俺と温はつき合ってるんだ、恋人として」  抑揚のない声で、それでもはっきりとそう言った。  言ってくれた!  確かにごまかせない状況ではあるけれど、それでも僕らの関係を優雅に伝えたことが嬉しい。 「なんでそんなことに……っ」  優雅はこの世の終わりのような顔をしている。 (なんでそんな顔するの?)  優雅の常識では僕らの関係はありえないことだろう。認めてくれとは言わない。でもそんなに絶望するようなことだろうか。  突然、ぶぁっと優雅の目から涙が吹き出した。 「男同士でつき合うなんてありえないっ。そんなことが許されるなら、おれだって……!」 「えっ?」  僕と陸郎は同時に声をあげた。 「おれだって。ずっと陸のことが好きだったのに!」 (な、なんだって?!)  今信じられない言葉を聞いたような気がした。

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