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第十二章『僕は……ほんとにほんとに幸せでした……っ!(大号泣)』ー12
今思うことはバイトしてて本当に良かったということ。もししてなかったらたぶん自室にずっと閉じこもっていただろう。
ところで。
さっきからずーっとちらちらっとこちらを窺う視線を感じている。さっき――いや、ここ数日、いやいやたぶん今年になって初バイトの時から。
何か言いたげな視線。今日は特に痛いくらいに感じる。
午後八時。
今日は少し早めに入ったのであがるのも早い。
フロアの隅で店内の様子を見渡している洸に声をかける。
「お先に失礼します」
「お疲れ様」
通常通りの返しがくる。
しかし、彼の前を通り過ぎようとした時、
「あとでラインする」
僕にしか聞こえないような声でこそっと言われ、思わず「はい」と答えてしまった。
(珍しいな、なんだろう)
更衣室で着替えながら考える。
陸郎と正式につき合い始めてから、洸は敢えてバイト先の先輩以上の接触をしてこなくなった。大学で偶然会うこともなくなった。
ラインも業務連絡以外は寄越さなくなったし、その業務連絡も滅多にない。
(ちょっと思いつめたような感じだったけど)
宣言通り午後十時過ぎに洸からのメッセージが届いた。
僕はすでに夕食も入浴も済ませ、ほぼ寝る態勢でベッドでごろごろしていた頃だった。
『お疲れ〜』
『お疲れ様です』
十時にあがり、着替えてすぐに連絡してきたのだろう。
急用なのだろうか。
『明日、バイトのあと空いてる?』
明日は十一時から十六時までのシフトだった。日曜日は主婦層のスタッフが休むため昼間の勤務もたまにある。洸も同じだ。
(たしか……三瀬さんは九時から十五時までだったかな)
『はい、空いてますけど?』
『カラオケ行かない?』
『カラオケですか?』
想像していたのとはだいぶ違った。
何か深刻な話があるのかと思っていた。
少し考えて。
『いいですよ』
『じゃあ、駅前のにゃんこで』
『先に行って待ってる』
『了解です』
最後に『グーッ』と指を立てているスタンプを送り、同じように洸からもスタンプが送られてくる。
『にゃんこ』というのはバイト先のファミレスからたいして離れていない場所にあるビルに入っているカラオケボックスだった。
(カラオケか〜高校生の頃に行ったきりだな)
洸がカラオケに誘ってきたことを意外に思いながら、そんなことを考えていたが。
(や、なんか、そうじゃないのかも……本当は何か話があるんじゃ……)
そうだとしたら、それはたぶん――。
* *
『にゃんこ』に到着。
受付カウンターで聞いた部屋番号のドアを開けると、洸の歌声が流れてきた。それは流行りのバンドの切ない歌だった。
(わぁ〜イケメンは歌も上手いのか〜)
と感心しているとブチッと歌声もメロディーも消えた。
「お疲れ〜」
「お疲れ様です。いいんですよ、歌ってても。洸くん、歌も上手いんですね」
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