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最終章『そして、春――愚か者どもの愚かな真実』ー1

 状況はまるで変わらず、自らも行動を起こさず、ただ日々が過ぎていくばかり。     そして、春。  僕はやっと決意した。  それがどんな結果になろうとも、たとえ彼との完全な別離になったとしても。  今まで曖昧にしてきたことをはっきりさせることにした。   先へと進むために。 * *  三月二十四日。  桜葉大学の卒業式。  陸郎と優雅が卒業する日。  そして、『恋人ごっこ』の期限でもあった。  本当の恋人同士になれた時、この期限はなくなるものと思っていた。しかし、今の僕らの関係がいったいどうなっているのかわからない。  自然消滅させるよりも、この期限を使うことにしようと思った。  僕はあの日以来初めて陸郎にメッセージを送った。  昨夜のことだ。 『明日、会ってください』 『卒業式後、僕らが再会した正門前で』  しばらくして既読はついたものの、返信はなかった。    僕は正門の内側に立っていた。  陸郎に渡す花を持って。  華やかなものではない。  一本の桃の枝だ。  駅前の花屋で見つけて、透明なフィルムに黄色のリボンをつけてもらった。  華やかな花束よりも、すっと伸びている枝一本が陸郎らしいと思ったのだ。  もう卒業式は終わったようで、ホールからぞろぞろとスーツや華やかな袴を着た卒業生たちが出てくる。ホール周辺から僕のいる正門前に至るまで人でごった返している。 (卒業式にもキッチンカー出るのかー。本当にお祭り好きな学校だな)  などと呑気に眺めているようでいて、本当は胃がきりきりするほど緊張している。  まるで入学式の日と同じ風景に、陸郎と再会したあの日のことがまざまざと脳裏に浮かんだ。あの日入学式に参列していた僕は、まさかこの一年の間にこんなことが起きるなんて予想もしていなかった。 (陸郎さん、来るかな……)  真面目な彼のことだ、おそらく僕の呼び出しに応じるだろう。  果たして。  大人っぽいかっこいいスーツ姿の陸郎が僕の前に現れた。  ただ黙って僕の前に立ち尽くす彼は、相変わらずイケメンで無愛想で、どこかよそよそしさを感じるような気がした。  まだただの『兄の親友』『親友の弟』という間柄だった頃のように。 「陸郎さん……」 『陸郎』が『陸郎さん』に戻ってしまったのを聞いて、彼の表情が少し悲しげになった。  気のせいかもしれないけど。 「そ――」  言いかけて、はっとする。背の高い陸郎の後ろからひょいと顔を出した人物がいた。 「ゆ……お兄ちゃん」 『優雅』と口にしそうになって、慌てて言い直す。 「陸のことしか見えてないんだもんなー」  口を尖らせながら言う優雅は、醜態を見せたあの日とは違う、いつもの兄だった。 (こいつっどの面下げてっ)  自分の中に凶暴な別人が現れたような気がしたが、それは一瞬だけだった。  

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