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最終章『そして、春――愚か者どもの愚かな真実』ー3
「え……っと」
出鼻を挫かれた。
ここに来るまで、陸郎に伝えたいことを何度も頭の中で復唱していた。
『卒業おめでとうございます』
まずはそう言って、手にしている花束を渡す。駅前で桃の枝を見かけるまでは、あまり仰々しくないような小さな花束を渡す予定だった。
それから。
『優雅とはどうなったんですか?』
『僕らの関係はどうなるんですか?』
『お別れなら、はっきり言ってください』
でも、優雅の登場で全部弾けた。
なんで優雅が一緒にいないって思ったんだろう。一緒にいる可能性のほうが高かったのに。
優雅は一緒にいた。
これはやはり二人の間に『何か』があったと考えていい。
『何か』
優雅を追いかけていった陸郎。帰って来なかった二人。家にいない日がまた多くなった優雅。
優雅を門の前まで送り届ける陸郎――彼が優雅を好きだった頃のように。
そして、連絡をいっさい寄越さない陸郎。
(どう考えても、二人は……)
それなのに、さっきの優雅の言葉でますますわからなくなった。そんな状況の中、二人きりにされてどんな顔をしていいやら、何を言っていいやらわからなくなった。
まずは……。
(まずは、そう! お祝いを言おう。それ以外はその後考える!)
僕は陸郎と向かい合った。
「陸郎さん……卒業おめでとうございます」
まだ開いていないピンク色の蕾のついた桃を差し出す。
「ありがとう」
彼はほんの少し目尻を下げ、大事そうにそれを受け取ってくれた。
「…………」
お互い顔を見合わせて黙り込んでしまう。
(え……っと。次になんて言う? 優雅とはどうなったんですか? 今までどうしてたんですか? なんで連絡くれなかったんですか?)
責めるような言葉ばかり浮かんでくる。でも口からはなかなか出てこない。
「温……少し話をしない?」
彼はまだ僕を『温』と呼んでくれる。でも僕はまた『陸郎さん』に戻ってしまった。また『陸郎』って呼びたいのに。
「ちょっと歩こう」
「あ……はい」
再会したての頃のように、陸郎の横には並ばず後ろをついていった。
(あ……この方向には……)
陸郎は『恋人たちの森』に向かっているようだった。一度連れて行ってもらってから来たことがない。
あの時は緑が輝くような季節だった。
今は――。
「桜! 綺麗ですね!」
まだ三分咲きくらいだ。薄いピンク色の花をつけた木々が連なっている。
「卒業式の時にはまだ咲いてないことも多いけど、今年は暖かったからね。満開の桜もきみに見せたかったけど」
「満開になったらすごいでしょうね〜僕その時に見に来ますよ」
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