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最終章『そして、春――愚か者どもの愚かな真実』ー5

「俺も別に優を選んだわけじゃない。本当は取っ捕まえて家に戻すつもりで追いかけた」 「……じゃあ、なんで……」  陸郎の言葉がにわかに信じがたかった。それを信じるには、三か月近くの無言は長かったと思う。 「けど……優は帰らないって泣き喚くし。あんな時間に騒いでて警察に通報でもされたら、それこそ大ごとになる。何より真冬で一晩外にいたらヤバいだろ……って思って」 (優雅……ズルいっ)  それを聞いて僕はちょっと冷たい気持ちになった。もうすぐ社会人になる男なんだから、自分でどうにかするだろうに。結局陸郎は優雅に甘い。優雅も自分のことを放っておけないと思っての行動に違いない。 「しかたがないから、駅前のカラオケボックスに朝までいた」 (カラオケボックスかぁ。良かった、ラブホに入ったなんて言われたら、死ぬ!)  そこだけはちょっとほっとした。 「その後俺の家に行った。母親は俺が咲坂家で過ごしたのが優のほうだと思ってたから、特に不思議にも思わず歓迎してたよ」 (なにっそのいらない情報は!)  いろいろな意味でもやっとしたけど、今訊きたいことは。 「なんでそこで陸郎さんの家に連れていったんです?」 「優が帰りたがらなかったから」 「放っておけばいいのに」  かなりトゲトゲした雰囲気が漂い始める。 「約束……? いや、契約かな? をしたんだ」 「え? 契約? いったいなんのっ?!」  少し()があり、陸郎はおもむろに言った。 「ーー『恋人ごっこ』をする契約だよ。期間は卒業式まで」 「…………」  すぐに彼の言葉が理解できなかった。 『恋人ごっこ』その言葉は今まで僕が何度も使っていた言葉だ。 「えー……っ」  思わず森中に響き渡るような声を出しそうなところを自分の手で口を塞いで、どうにか留めた。  なんと!  兄が親友と恋人ごっこしてました! 「ど、ど、どうして、そんなことに」 『今の距離感』からはみ出て、勢い込んで陸郎のスーツの襟を掴んでしまう。  ぽりっと陸郎が指先でこめかみを掻いた。 「カラオケボックスで優が言ったんだ。『おまえは本当はおれが好きなんだろ。けど、おれが振ったからおれに似た温とつき合ってるだろ。おまえが本当に好きなおれがおまえのこと好きだって言ってんだ、だからおれとつき合え』って」  僕は陸郎のスーツを離して、綺麗に整えた。冷静に見えるかもしれないが、はらわたが煮えくり返る思いだった。 (なんて、自分勝手な男なんだっ)  しかし、一方でそれは自分も心のどこかにずっとあったことだと思った。 「やっぱり陸郎さんは、優雅のことが……」

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