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最終章『そして、春――愚か者どもの愚かな真実』ー7
それで今まで連絡もなかったんだと納得した。
(一度くらい連絡してもわからないだろうに。そういうとこ真面目というか、ズルができない人なんだろうな)
それを分かってて優雅も条件をつけたのだろう。その間に、やっぱり陸郎は自分のほうが好きで僕のことは身代わりだと自覚するとでも思ったのに違いない。僕にしても、連絡も寄越さない、弁解もしない陸郎を不誠実に思って諦めると考えたのかも。
「それで……毎日恋人のように会っていたんですか?」
これは誇張しすぎかもしれないが。僕だって毎日会っていたわけでもない。
「毎日? いや、週に一、二回程度。会わない週もあったけど」
「え? そうなんですか? でも優雅、ほとんど家にいなかったみたいだったから。僕、何回か見たんです、陸郎さんが優雅を家の前まで送ってきているのを。あ、たまたま窓から外を見ていただけです、たまたまですよ」
(なにムキになって弁解しちゃってんの〜)
かっかっと顔が熱くなる。くすっと陸郎が笑った。
「たぶん、きみが見た時だけだよ、会ってるの。彼奴、就職先の経営コンサルタントに早々 研修に行ってたから。俺は俺でやっぱり忙しかったし」
「え……じゃあ、あの髪は……」
さっき見た優雅のさらっとした黒髪を思い浮かべる。まるで高校生の頃のような。
「え? 髪?」
なんでそんなことが気になるのだろう、みたいな表情をする。
「研修に行くからじゃないか? あんな派手な髪形でサラリーマンできないよ。確か就活中も一旦戻していたと思ったけど?」
(そうだっけ?)
記憶を辿っていくが浮かんでこない。その頃もたぶんあまり家にいないことが多かったのと、僕と生活時間が合わなかったのとで、同じ家に住んでいるはずなのにほとんど遭遇しなかった。
「恋人ごっこといっても、たまに会って食事したりするくらいだった――キスもセックスもしなかった」
「りく……っ!」
実はそこは気になっていたところだった。でもあまりにもあからさまに言うので面食らってしまう。さらに顔が熱くなる。僕は両掌で顔を覆った。
「あ、でも、優が手を繋いでみたいって言ったから一、二回手を繋いで歩いたかな。でもすぐ向こうから離したよ」
「そ、そうですか」
さっきの言葉が衝撃的すぎて、手を繋ぐ繋がないくらい可愛いことのように思えてくる。
「まあ……俺には分かっていたけどね」
覆った指の間からちらりと覗く。
「優は、俺とつき合えだの、試してみろだの言ったけど、優自身が無理だってこと。好きという気持ちよりも今までの自分の常識を取るってこと」
僕は顔を覆っていた手を下ろし、陸郎の顔を見つめた。
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