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第13話

湊の言葉に冬真は身を固めた。 返す言葉が、すぐには見つからなかった。 口の中がひどく乾いている。 ――目の前の子は何と言った? 「罪」という二文字が、思った以上に重く胸にのしかかる。 彼の言葉は的外れだ、と言い切れない自分がいる事に気付き、冬真は身を守るように腕を組んだ。 「……そんなつもりは全くないんだ。利用している、と言われるなんて心外だよ」 強張りそうな表情を精一杯和らげて湊に言うと、盛大に息を吐く音が聞こえる。 「つもりがないなら、余計、質が悪いですね。いっそ利用していた、と言ってくれた方が腑に落ちますよ」 「そんな…違う…」 「じゃあ、なんだっていうんです?」 「蓮は……あの子は引き取った時は、今のような子だったわけじゃない。  人の顔色ばかり見て、誰にも本音を見せられない。 引き取られた家はうちで、他の家庭とは違うからね……。  確かに、それはうちの家の問題だよ」 「だからこそ、君と仲良くしてほしかったんだ。 僕たちの前で、本当の顔を見せることが難しくても、君の前なら本当の顔を出せるんじゃないかって、そう思ったんだよ」 そこで冬真は言葉を切った。 喉の奥に、まだ言葉のしこりのようなものが残っている気がした。 沈黙が落ちる。 エアコンの送風音だけが、部屋の隅で小さく唸っていた。 「──なるほど」 ぽつり、と湊が言った。納得、というより、自分の中で何かが確定された時の声だった。 「蓮のために、ですよね」 ゆっくりと顔を上げるその目を見て、冬真は息を飲んだ。 先ほどまでの感情の揺れはなくなっていた。 冷静すぎるほど冷静で、その分だけ突き刺さる。 「蓮に本音を出させる場所が必要なのは分かります。でもそれは何故僕だったのか」 「何故って、君と蓮は年も同じだし、近しい存在になればと思って…」 「『湊は優しい子だから』、『あの子は人の感情に敏感だから』── そうやって言い訳することを、まるで免罪符みたいにしていたんじゃないんですか?」 「そんなつもりは……」 反射的に否定しかけて、冬真は言葉を飲み込んだ。 胸の奥が軋んでいた。 ──違う、違う。 けれど、はっきりと「違う」と言い切れるだけの自信が、どこにもない。 「蓮のために、っていうのは分かります」 湊は続ける。その目は真っ直ぐに冬真を射抜いていた。 「蓮がこの家で本音を言える場所が必要だということも理解できます。 ……でも、その役割を、僕に引き継がせましたよね?」 「……ちが……」 「貴方は蓮の事を大事に思っていることは知っています。本音も出せるように接していた……でも、いつからかそれを僕に変更した」 「……蓮の気持ちに気づいたからじゃないですか?」

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