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第20話─蓮─

「……ただの厄介払いとしか思えなかったです」  そう言ってから、電話の向こうは沈黙した。  長い、長い沈黙。  電話の向こうで、冬真さんが何かを言っている。  浅い息遣いのなか、必死に何かを伝えようとしている。  それでも、うまく聞き取れない。  言葉よりも、自分の鼓動の方が大きかった。   「……厄介払いなんかじゃない。それだったら連絡なんてしない」    ふいに届く静かな声。  さっき自分が放った言葉が返ってくる。   「そう思わせたのは、僕の責任だ。……でも、捨てたわけじゃない」    否定は、強くなかった。  言い切るというより、押し殺しているような響き。  胸の奥が、わずかに揺れる。  でも、すぐに打ち消した。  そんなの、後からなら何とでも言える。   「君には幸せになる権利がある」    またその言葉。  理屈だ。  正しいのかもしれない。  でも、正しさで消える痛みじゃない。   「……それでも」    気づけば、声が漏れていた。   「それでも、俺には……」    続きが出ない。  厄介だったのは事実だ。  湊を傷つけたのも、自分だ。  そう思ってきた。  でも……。 「……すみません」  何に対しての謝罪なのか、自分でも分からない。 「蓮……」 「……今日はもう……」  目の前が白く霞んでいく。  何も考えることができない。 「また、連絡します」  相手の返事を待つことなく、終了ボタンを押した。  スマホの画面が暗くなるのを見届けると、情けない顔をした自分がうっすらと映っていた。  怒っているような、泣き出しそうな、そんな表情をした自分がいた。  頬を撫でていく風は、ひんやりとしていて近づいていた春を遠ざけている気がした。  そんな思いを抱きながら、家のドアを開けると晴臣さんの気の抜けた声が聞こえた。 「帰ったのか~?」 「……ただいま」  ヘッドホンを外しながら部屋から出てくるのが見えた。  顔を見られたくなくて、足早に自室に戻る。  着替えているとドアのノック音が聞こえる。  俺の返事を待たずして、扉が開かれた。 「今、着替え中だし、返事してないし」 「いいんだよ。ちゃんと俺は『開けるぞ〜』の意思表示はしたし」  部屋の入口の壁に、ズボンのポケットに手を突っ込みもたれるように立っている。 「なんです?俺の着替え見ても面白くないですよ。話ならリビングに行きますから」  少しイラついた声を出して言うと、ん~と悩む気のない声で悩む。 「なんかあったか?」 「……べつに」 「そっか。……ならいい、邪魔したな」  ひらっと手を振って部屋を出ていく。 「なんなんだよ、あの人……」  そう言いながら、開けられたままのドアを閉めようとした。  そのときに、先ほどより呼吸が深くなっていることに気付いた。

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