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第21話─湊─

 朝の校門は、いつも通りのざわめきに満ちていた。  先生と委員会の当番が挨拶をしている。  それに応えるように、登校する生徒たちも挨拶をする。  湊もそれに倣うように挨拶をして、校門を抜けると後ろから肩を叩かれた。  はっとして振り返ると、そこにはクラスメートが笑っていた。 「おはよ、湊」 「なんだ、お前か……。おはよ」  わざと興味無さげに言うと、相手は大げさに嘆いてみせた。  いつもの通りのやりとりをして、ひとしきり笑ってから教室に向かう。    教室の扉を開くと、開け放たれた窓から入る風とクラスのざわめきが混ざり合って、耳に入ってくる。  その音を耳にしながら、湊は席に座った。   「昨日のさ――」    隣の席の声に、顔を向ける。  話の内容は、他愛のないものだった。テストのこととか、放課後の予定とか。  適当に相槌を打ちながら、言葉を返す。  特別、楽しくもないし、つまらないわけでもない。  いつも通りの朝だった。  ふと、教室の後ろの扉に目が向いた。  そこに何があるわけでもない。  ただ、他のクラスの生徒たちが歩いているのが見えるだけだった。   一度、視線が彷徨ったが、すぐに目を逸らす。  別に、何かを――誰かを――探していたわけじゃない。 「なあ、聞いてる?」    声を掛けられて、意識が戻る。   「ああ、うん。聞いてる」    軽く頷くと、相手はそれ以上は気にした様子もなく、話を続けた。  その横顔を見ながら、適当に言葉を返す。  会話は途切れない。  けれど、どこか上滑りしているような感覚があった。  チャイムが鳴り、教室のざわめきが一度ほどける。  席に着く音が重なり、いつもの授業の空気に変わっていった。  教師の声が教室に響く。  教科書を開き、黒板に目を向ける。  並んだクラスメートの背中、ノートに書き写すペンの音。  全部いつも通りだ。  なにも変わっていないはずなのに、どこか少しだけずれている気がした。  教科書の文字を追っているのに、なぜか頭に入ってこなかった。  ふと手が止まる。  理由は分からない。  止まったペン先を見つめたまま、自嘲するように笑う。  理由なんてない。  そう自分に言い聞かせて、また手を動かす。 「……」  同じ箇所をノートに書き写している事に気が付いて、慌てて消そうとしたが、力の入り具合が調節できなかった。  ノートに皺が寄ってしまう。  そんな自分に苛立ちを覚え、その空気を振り払うようにペンを走らせた。    家に帰ると母さんが家にいた。 「帰ったのか」  リビングでパソコンを向き合いながら、声を掛けられた。   「ただいま。今日は早いね」 「ああ、陸翔は今日、遅くなるそうだ」 「そっか。最近父さんにも……会ってない気がする」 「……()()?」  母さんがパソコンから顔を上げ、こちらを見ながら訝しげに首を傾ける。 「……いや、ほら……母さんとも最近会話をしてなかったし……」  言えば、納得したように頷く。 「そうだな、私()()会話していなかったな。久しぶりに親子の会話をするか?珍しいことを言う」 「はは、まだ甘えさせて」 「ふふ、早く大人になれ」    優しい笑みを浮かべて言うと、再びパソコンに向きなおる。  リビングを出て自室に戻ろうとすると、夕飯は牛丼にする、と母さんの宣言が聞こえた。  今日はどこか鬱々とした気分だったが、部屋に戻る足取りが少しだけ軽くなった気がした。  制服を脱ぎ、着替えているとスマホが短く震えた。  また通知か、クラスメートだろう。  宿題のプリントを取り出していると、再び短く震えた。  ため息交じりにスマホを手に取る。  画面を見た瞬間、思考が止まった。  とっさにスマホの画面を消した。    ――今のは……    ゆっくりとスマホの画面を開き――表示されている名前を、もう一度見直す。 「……蓮」

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