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第23話 ─蓮─

 送信済みの文字を何度も見返していた。  既読はまだつかない。 「……なにやっているんだ、俺」  指先が落ち着かない。    取り消すか……  指が止まる。  まだ見ていないかもしれない。  取り消そう。  画面に触れた瞬間、静かに既読の文字が浮かび上がった。  まだ繋がっているという安堵感と、見られてしまったという後悔が入り乱れる。  呼吸が浅くなる。 「……湊」  目を閉じて名前を呼ぶ。  逃げないと言ったあの日から約束を反故するように逃げていた。  自分の中で整理が出来たと思って連絡したのに、その決意が揺らぐ。  こんな自分に湊はまた向き合ってくれるのだろうか。  あの笑顔を向けてくれるのだろうか。  あいつはまだ、俺が横に立つことを許してくれるだろうか。    胸の中がざらざらとしたものが去来する。  まるで砂嵐のような、そんな感覚だった。    ――厄介。  いつだったか、自分が冬真さんに投げかけた言葉を思い出す。 「ああ……」  思わず苦笑が漏れる。  まさしく俺は厄介じゃないか。  冬真さんのことも。  湊のことも。    勝手に傷ついて、勝手に逃げて、勝手に当たって。  それなのに、失いたくないなんて都合がよすぎる。    色々なことを自分なりに整理したと思った。  落ち着かせたと思った。    なのに、たった1つのメッセージに既読がついただけで、こんなにも心が乱される。    スマホを伏せて机の上に置き、天井を見上げて、肺の中の空気をゆっくりと吐き出す。  その時、不意にドアをノックされた。   「どうした? 悩める少年」  相変わらず、俺の返事を待たずにドアが開き、呑気な声で晴臣さんが声を掛ける。 「別に、なんでもない」  歯切れの悪い返事をすると、興味なさげにふーん、と言う。 「その顔で?」  揶揄うような相手の言葉から逃げるように顔を背け、伏せてあるスマホに無意識に手を伸ばす。 「ま、なにに対して、しょんぼりしているんだか分からんが、お前が自分で選択した事は、どんな結果になろうと正解なんじゃねぇの?」 「…………」 「青春なんてそんなもんだ」 「なんですか、それ」 「ははは、もう少し大人になりゃ分かる。まあ、いいさ。  今日は牛丼買ってきたから、食おうぜ」  晴臣さんがリビングへ誘うように、首を傾げる。 「あとで行きます」 「おう。準備してるから来いよ」  ドアを閉めずにリビングへ向かう晴臣さんの背中を見る。  あの人は、あのがさつさでどうやって生きてきたんだろう。  開けても、閉められたことのないドアを見つめながら、ふとそんな疑問が浮かんだ。  そういえば。  この部屋に越してきてから、あの人がドアを閉めていくところを、一度も見たことがない。 「…………」  ドアを閉めようとすると、微かに牛丼の匂いが鼻を掠めた。 「メシ、冷めちゃうか」  スマホを机の上に置いたまま、俺は部屋を出た。

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