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第26話─湊─
画面は暗くなっているのに、まだ蓮の声が耳に残っていた。
握りしめたスマホを手放す事ができず、ただぼんやりと足元を見つめる。
外はすっかり暗くなっていて、窓から街灯の灯りが筋の光となって部屋の中に入っている。
—今度こそ、ちゃんとお前を見るよ—
蓮の言葉が頭を巡る。
本当に?
信じたい……。
でも、あの時のようになるのが怖い。
駄目だ。
また傷つく。
信じていい?
また、何も知らされず離れてしまうかも。
期待と不安だけが胸の中で交差し、答えの出ないまま沈んでいく。
どこまで彼を信じたらいい?
僕はこのまま彼を受けいれていいのだろうか。
スマホを握ったまま、ベッドへと放り投げる。
何日もの疲れが一気に押し寄せたように体が重い。
なにも考えられない。
ゆっくりと目を閉じていると、不意に部屋の扉が叩かれた。
「湊、いるか」
「……うん」
母の問いかけに力なく答える。
「ドアを開けても?」
「いいよ」
ガチャリと音を立てて開かれるドアへ視線を送りながら、重い体を起こす。
「どうしたの?」
「夕飯だ。……酷く疲れているようだが、食べられるか?」
「……うん。行くよ。ありがとう」
「分かった」
何か言いたげな様子で僕を少しだけ見て、扉を閉める。
いつも通りの声色、態度で対応したのに、あの人には敵わない。
諦めに似たため息を吐く。
ベッドの上にあるスマホを手にとるかどうか迷い、視線が彷徨う。
いや。
食事の時は考えるのをやめよう。
そう思い、スマホをベッドに残して部屋を後にした。
ダイニングに行くと、母の手製の牛丼が置かれていた。
今日は調子が良かったのか、サラダと味噌汁もある。
「冷めないうちに食べよう」
向かいの席に母が腰を下ろす。
「いただきます」
母は笑いながら缶ビールを開ける。
プシュッという小気味のよい音が静かなダイニングに響く。
「今日は豪勢だね」
サラダの器を手に取りながら、母に言うと大げさに驚いた顔をして見せる。
「心外だな。私が作る時は豪勢なものを用意しているぞ」
「ははは、知ってるよ。いつもありがとう」
「ふふふ、そんな風に私を茶化すようになったのか、うちの御曹司は」
目を細めながら笑う母の姿は本当に嬉しそうで、思わずこちらまで笑ってしまう。
それと同時に、全てを見透かす彼女の目。
なんとなくバツが悪くて視線を逸らしてしまう。
「……紅ショウガある?」
「ああ、あるぞ。出すのを忘れていたな」
そう言って席を立って冷蔵庫から紅ショウガの入った小さい容器を取り出し、僕に手渡してくれた。
「……湊」
名前を呼ばれ、牛丼に紅ショウガを乗せている箸の動きが止まる。
「なに?」
「目が腫れているな……玉ねぎを切った際の成分が残っていたか?」
「え?」
「……それとも勉強のしすぎか?」
缶に口をつけながら、母は静かに僕を見つめていた。
その表情は先ほどより柔らかいものだった。
「ふふ、そうだね。勉強も頑張っているよ。玉ねぎは……母さんの方がダメージが大きかったんじゃない?」
「本当に玉ねぎは厄介だ。往生際の悪い野菜だな」
そう言いながら、丼の中から煮込まれて甘くなった玉ねぎを箸で取り上げ、忌々しげな顔のまま口へ運んだ。
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